
新型コロナウイルス感染症の脅威が拡大する中、金融市場が大きな反応を見せ始めた。世界経済がリセッション(景気後退)に突入することは不可避だという声も聞こえる。だが、コロナを取り巻く状況は刻々と変化しており、現時点での予測値や指標は役に立たない。目の前の情報だけを頼りに結論を下すのではなく、人類がこれまで乗り越えてきた危機の歴史にも目を向けることが重要である。
中国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する間、世界の金融市場はそれほど大きな反応を示していなかったが、感染が欧州と中東に広がり、パンデミック(世界的大流行)の不安に火がつくと、風向きが変わり始めた。
さまざまな投資商品に関して、新型コロナウイルス問題のリスクを非常に重く考える予測が続々と示されており、世界経済がリセッション(景気後退)に突入することは避けられないとの見方をする人も現れている。
私たちはビジネスリーダーとの会話の中で、この問題に関するさまざまな疑問を投げかけられる。相場の下落は、本当にリセッションの兆候なのか。そのリセッションはどのくらい深刻なものになるのか。その後の成長と景気回復のシナリオはどのようなものか。この危機は世界経済の仕組みに恒久的な変化をもたらすのか。
これらの問いに答えるうえでは、予測値や指標は役に立たない。GDPの予測値は、平穏な時期ですら、お世辞にも当てになるとは言い難い。ましてや、感染の拡大がどのように進むか、封じ込めの取り組みがどの程度功を奏するか、消費者や企業がどのような反応を示すかが見えない現状では、信頼性の高い予測値を導き出すことなどできない。新型コロナウイルスが経済に及ぼす影響を正確に描き出せるデータは、どこを探してもない。
今後の世界経済を見通すためには、さまざまなマーケットに表れている兆候、過去のリセッションと景気回復のパターン、伝染病やその他の経済的ショックの歴史を慎重に見る必要がある。