リセッションが起きるとすれば、
どのようなものになるか
マーケットの心理が実体経済の先行きを正確に映し出すとは限らないが、リセッションのリスクが存在しないとは言えない。
米国を含む主要国で、経済の脆弱性は確かに高まっている。成長が減速しており、多くの国では経済的ショックを吸収する力が弱まっているのだ。ここしばらくは、米国経済の脆弱性が高まっている時期に、外的要因によるショックの直撃を受けるというのが、リセッションが起きる場合の最も蓋然性の高いシナリオだった。
リセッションはほとんどの場合、3つの類型のいずれかに分類できる。
●実体経済型リセッション
景気拡大を終わらせて景気減退をもたらす要因は、たいてい資本的支出のサイクルだ。しかし、戦争や災害など、深刻な外的ショックにより需要と供給に大きな影響が及ぶ場合も、実体経済が収縮するケースがある。新型コロナウイルスがリセッションの引き金を引くとすれば、このパターンが最も蓋然性が高い。
●政策型リセッション
中央銀行が自然利子率と比べてあまりに高い政策金利を継続すれば、金融の引き締めが過剰になり、信用仲介機能が弱まって、やがて景気が息切れする。このリスクは、現状ではそれほど大きくない。米国以外の国の金利は超低水準に張りついており、一部の国ではマイナス金利の状態にある。米国のFRB(連邦準備制度理事会)も今回、0.5%の緊急利下げに踏み切った。それに、政府当局は金融政策以外の対応も取る構えだ。先進7ヵ国(G7)の財務相たちは、必要な財政政策を実行すると約束している。
●金融危機
金融の不均衡はゆっくり時間を掛けて蓄積されていく。そして、あるとき突然、調整が始まる。そうすると、金融の信用仲介機能が十分に果たされなくなり、実体経済も大きなダメージを被る。しかし、国による違いは大きいものの、世界経済への影響力が大きい米国経済では、金融危機のリスクが大きいとは言い難い。
一部の論者は、社債バブルをリスク要因として指摘している。たしかに、社債の発行額が大幅に増えており、それを反映する形で信用スプレッドも小さくなっている。
とはいえ、前回のリセッションの引き金を引いたサブプライムローン(信用度の低い個人向けの住宅融資)と同一視することは難しい。社債は実体経済の好況の原動力になっているわけではないし(サブプライム・ローンは不動産相場を支えていた)、金融機関のバランスシートに載っているわけでもない。この2つの点を考えると、仮に社債相場が暴落したとしても、経済全体に及ぶリスクは限定的だ(リスクを完全に無視すべきではないが)。
いずれにせよ、新型コロナウイルスが金融の不均衡を強めることは考えにくい。ただし、主に中小企業のキャッシュフローが逼迫し、それが経済のストレス要因になる可能性はある。
歴史を見ると、この3つの類型の中で害が比較的少ないのは、実体経済型リセッションだ。このタイプのリセッションは、(特有の問題はあるにせよ)ほかの2つのタイプに比べて良性の場合が多い。この種のリセッションを引き起こす需要や供給のショックは、深刻なダメージを生む可能性がある半面、基本的には一時的なものだからだ。
それに対して政策型リセッションは、政策の誤りの程度次第では、きわめて深刻なものになる場合がある。たとえば、20世紀の世界大恐慌は、史上最大の政策上の誤りによって誘発されたと言えるかもしれない。しかし、最も質が悪いのは金融危機によるリセッションだ。金融危機によって経済に生じる構造的問題は、是正するのに長い期間を要する場合がある。