最近、誰かのこんな叫びを聞いた。「私はただのコーチング中毒だ! 人が困難を乗り越えるのを見るのが大好きなんだ」。どうやら、この心理は特別なものではないらしい。善意からとはいえ、コーチやリーダーはたしかに、助言を必要としている人を「助けすぎている」可能性がある。

 マイケル・バンゲイ・スタニエは、著書The Advice Trap(未訳)で、人間が生まれ持つ「助言する」ことへの執着について述べている。「誰かが話を始めるとすぐ、我々の潜在意識からアドバイスモンスターが頭をもたげ、手をこすり合わせながらこう言い放つ。『私はこれから、この会話に価値を与える!』。我々のアドバイスモンスターの根底には、『自分は相手よりも優れている』という危険な思い込みがある」

 行動学の専門家は、「人助け」は確かに中毒性を持ちうると認めている。人を助けるとき、脳は3つの化学物質を分泌する。いわゆる「ハピネス・トライフェクタ」(3つの幸せホルモン)である。

・セロトニン(強い幸福感を生み出す)
・ドーパミン(やる気を高める)
・オキシトシン(他者とのつながりを感じさせる)

 これらが組み合わさった結果として生じる幸福感を、人は当然、繰り返したいと思う。しかし、人を助けたいという欲求が抑えられなくなり、自分の目的意識が他者、すなわち自分の指導を必要としている相手に直接結びついてしまうと、助けているのはもはや他者ではなく、自分自身ということになる。

 心理学者は、この問題をエージェンシー・アディクション、または「ホワイトナイト症候群」と呼んでいる。(自分のアドバイス、コーチング、アイデアなどで)人を支援することによって相手を救いたい(そして自尊心を保ちたい)という欲求として定義される。一方、自分が他者の成功を手助けしたときと同じように、他者が自力で成功するのを見て喜ぶのが、健全な主体性の持ち主だ。

 これは、知識経済が進展した影響なのかもしれない。絶え間なく変化する、極めて革新的な環境は、みずからの有用性を実感したいという人間の欲求を強化すると考えられる。

 いまの社員は、アイデアの採否、洞察力や分析力、難問解決などでその貢献度が測定される。何を生産するかと、自分が何者であるかが不可分に結びついているのだ。

 あるクライアント企業は、危なっかしいほどに、その状況にあった。パートナーの一人が頭脳明晰、寛大で、喜んで人を助けるので、同僚に「問題解決ATM」と呼ばれていた。「人は最後に出したアイデアで評価される」が彼のモットーだった。だが、密かにうつ病と不安に苦しみ、自分の価値と周囲への支援とを切り離して考えることができなかった。

 人助けの喜びは、自己満足と紙一重なのではないかと一度でも疑ったことのある人は、ホワイトナイト症候群を克服するために、あるいはそうした事態をいっさい回避するために、できることがいくつかある。