打撃が生じるメカニズム
上述の類型を念頭に置くと、新型コロナウイルス感染症によるショックに向き合うために重要なのは次の2つの問いだ。
・経済の供給サイドへのダメージは、どのようなメカニズムで発生するのか。
・そのようなダメージを防ぐためには、どのような政策を取るべきか。
金融危機が経済の供給サイドを麻痺させることは、よく知られている。歴史を通じてそのようなことは繰り返されてきたし、その種の危機への対処法については政策当局も多くの教訓を蓄えてきた。
だが、新型コロナウイルスは実体経済にも流動性と資本の問題を生み出しており、そのダメージは前例のないレベルに達している。しかも、金融市場と実体経済のショックという双子のリスクは互いに増幅し合うことにより、リスクをいっそう拡大させている。
新型コロナウイルス感染症は、2つの経路を通じてU字型の経済的ショックを引き起こす可能性がある。このシナリオが実現すれば、経済に構造的なダメージが及ぶ。その点をもう少し詳しく見てみよう。
●金融システムのリスク
前例のない新型コロナウイルス感染症の流行は、すでに資本市場にストレスを与えており、各国の中央銀行は強力な対応を打ち出さざるをえなくなっている。流動性の悪化が長期にわたり解消されず、実体経済の問題が損失処理につながれば、資本の問題に発展しかねない。
問題を解決するためにどのような政策が必要かははっきりしていても、金融機関の救済と資本増強を行うことには、どうしても政治的に賛否が分かれる。金融危機が起きた場合、資本形成に深刻な打撃が生じ、景気低迷が長期化して、雇用と生産性にも悪影響が及ぶ。
●実体経済の停止状態の長期化
これは過去に前例がない事態だ。ソーシャル・ディスタンシングが長引けば、資本形成が円滑に進まなくなり、最終的には雇用と生産性にも影響が波及する可能性がある。実体経済の停止状態が長期化し、経済の供給サイドに深刻なダメージが及ぶ事態は、金融危機と異なり、政策当局者も未知の領域だ。
金融のリスクと実体経済のリスクは、2つの点で相互に関連している。まず、新型コロナウイルス危機が長期化して実体経済で倒産件数が増えれば、金融システムが対処しきれなくなる可能性がある。一方、金融危機が進行すれば、実体経済にも信用逼迫という影響が及ぶ。
新型コロナウイルス危機にまつわるリスクの状況は、非常に深刻と言わざるをえない。金融危機に対しては定番の政策的対応が確立されているが、実体経済の大掛かりな停止状態に対しては、そのような方法論が存在していない。実体経済全体で流動性の問題が生じた場合、ただちに実行に移せる対策は明らかになっていないのだ。