暗くて、予測がつきにくい未来
新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるうえで有効だとわかっている唯一の方法は、ソーシャル・ディスタンシングだ。しかし、このアプローチを成功させるためには、素早く実行しなくてはならない。
武漢市がある中国・湖北省ではその時期を逸してしまったが、中国のそれ以外の地域では、手遅れになる前に手を打った。イタリアは間に合わず、ほかの欧州諸国も後手に回った。米国でも、いまだに検査が十分に行われない状況が足枷になり、ソーシャル・ディスタンシングを成功させるチャンスを活かせなかった。
感染が大きく広がってしまうと、ソーシャル・ディスタンシングを早い段階で実行した場合と同様の効果を上げるためには、それを大規模かつ長期間にわたって行わなくてはならなくなる。それに伴い、経済活動の停滞もより深刻になる。
感染拡大の波が第一波だけで終わる保証はない。比較的迅速に対処した国でも、経済活動を再開させようとするたびに、再びリスクが持ち上がる。実際、シンガポールや香港では感染が再燃している。この点を考えると、早期の積極的な対応が有効だったかどうかは、ずっと先にならないとわからない。
それでも、少なくとも現時点で言うと、対応が遅れた国の経済的な見通しが暗いことは間違いない。多くの国の政治家や官僚、マーケットはすっかり油断していた。新型コロナウイルス感染症の流行が経済にもたらすリスクを計算したとき、この1ヵ月ほどの展開は想定していなかったのだ。
新型コロナウイルス問題では、予測があまり当たっていない。たとえば、米国の場合、3月26日に発表された前週の新規失業保険申請件数は、大方の予測である160万件前後を大きく上回り、史上最多の328万件に上った。これは、世界金融危機のときの最多の週に比べて約5倍にも達する。
経済予測が当てにならないことはよく知られている通りだが、いまはとりわけ予測の信頼性が乏しい。現在の状況は、ひときわ不透明な点が多いからだ。具体的には、以下のような不確実性がある。
・ウイルスの性質が完全には解明されておらず、しかも今後変化する可能性も排除できない。
・無症状感染者が感染拡大でどのような役割を果たしているかも、まだ十分に理解できていない。
・その結果、正確な感染率と抗体保有率も明らかでない。検査が十分に行われていないことがその問題に拍車を掛けている。
・政府の対応は国によって異なり、しばしば後手に回る。しかも、判断ミスがついて回る。
・企業や家計の反応も予測がつかない。
おそらく唯一はっきり言えるのは、断定的な予測を試みても確実に失敗するということだ。それでも、先を見通すことが難しい状況で、いくつかのシナリオを示すことには価値があるだろう。