●プラス思考を醸成する

「リーダーとは、希望を取引する商人である」というナポレオンの名言がある。

 危機の最中、リーダーは自信、強さ、前向きなイメージを与えなくてはならない。これらは安定化に寄与し、そのままプラス思考につながる。

 古くからの決まり文句は正しい。鋭敏なリーダーは、困難にはチャンスがつきものであると知っているのだ。そのチャンスに意識を向けて活かせるよう従業員を導けば、安定に寄与するプラス思考を醸成できる。

 これは現実を否定したり、悪い情報を取り繕って見せたりすること――どちらも冷笑と不信感を招く――とは違う。リーダーは挫折や失望を率直に認め、プラス思考と現実思考を持って、前進のためにできることに集中すべきである。

 ●従業員を安心させる

 危機と劇変は、不安を生む。したがって従業員の役割、存在価値、将来を肯定し、安心させるよう最善の努力をすべきだ。

 ただし前述の通り、現実思考とプラス思考をバランスよく保つことは不可欠だ。大げさな約束は避けよう。そんなことをすれば、安定に欠かせない信頼を失うことになる。

 アメリカ国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、ホワイトハウスのコロナウイルス対策本部で、最も信頼できる権威としての名声を高めている。彼がメディアで人々に心強さを感じさせる姿は、他のリーダーが真似るべきロールモデルである。

 確実でポジティブな情報は、可能な限り従業員と共有しよう。たとえば組織の財務健全性、不況を生き延びるための具体的な戦略、従業員の安全と雇用を守るための計画などだ。こうしたメッセージは疑念と不安の払拭につながるため、安定化に大きく寄与する。

 緊縮措置についても同様に、リーダーが根拠を率直に、隠さず説明することで、従業員はその必要性を理解して受け入れやすくなる。辛いニュースは正しく伝えるほうが、安定化につながる。誤解を招くようなメッセージ、あるいはコミュニケーションの不在は、往々にして従業員に最悪の事態を予想させることになる。

 また、混乱を伴う変化の最中でいっそう重要となるのは、リーダーが部下の状況確認に通常よりも時間を割くことだ。シンプルな方法としては、電話をかけて(「ちょっと時間が空いたので、あなたの調子はどうか確認したいと思ってね」)、心配ごとや懸念にじっくり耳を傾けてもよい。

 経験的にお勧めしたいのは、仕事の確認の前に、相手の様子を確認することだ。つまり、最初に当人の調子はどうか、そして家族はどうかを尋ねる。こちらが相手を気にかけている、という意図を示すのだ。その後に仕事の状況を聞き、うまく対処するうえでどんな後押しが必要か尋ねるとよい。

 リーダーとして助けになろうと、あらゆる現実的問題や感情面の問題を解決する必要はない。共感を持って耳を傾けるだけでも、違いをもたらすことができる。自分の時間を相手にささげ、精神面でサポートし、感謝を表明することは、安定化の効果があるのだ。