●リソースを結集させる

「より少ないリソースで、より多くをやる」ことは、最も順調なときでさえ士気の低下を招く。危機によって従業員の時間、エネルギー、集中力が失われているときには、なおさらだ。

 疲弊して注意散漫となった人々に与えるリソースが少なすぎれば、すでに苦しい状況をさらに不安定化させるだけである。したがってリーダーは、「労働需要」と「使えるリソース」のバランスを取ることに、注力しなくてはならない。

 医療従事者はこの危機下で、必要な数の医療用具、場所、自分を守る医療防護具が足りない中、仕事をまっとうしようと努めている。彼らの甚大なプレッシャーを緩和するために、何が行われているか考えてみよう。

 労働需要の面では、患者のケアにおけるトリアージ(重症度に応じて治療の優先順位を決めること)のガイドラインが導入されている。供給面では、医療用具のリサイクル、収容能力の超過に備えた駐車場でのテント設置、サプライチェーンの拡張などによって、リソースが増強されている。

 経済的な重圧に対する一般的な対応は、もちろん緊縮である。企業は支出の削減、採用の見合わせ、昇給・昇進の一時停止、さらには一時解雇などに踏み切る。

 しかし思い切った措置を講じる前に、その対応が従業員と取引先に何をもたらすのかを、立ち止まって考えてみるべきだ。事態の安定化と不安定化、どちらにつながるだろうか。

 たしかに、コスト削減は必要かもしれない。だが、すでにストレス下にあり、活力と健康を保たねばならない従業員に、どんな影響が及ぶのか。賢明なリーダーならば。それを熟考する。そして、労働需要の削減とリソース増強の両方を実現できる、創造的な代替策を見出すために努力するだろう。

 一時解雇のような、不安定化を招く措置を決意したのであれば、そのメッセージをどう伝えるかについて、細心の注意を払うべきである。事業を守るために何が必要か、そしてリーダーはどうすれば、従業員に与える動揺を最小限に抑える形でそれを実行できるか、を考えよう。

 筆者らが助言を提供する某社は、容易に実行できるコスト削減策を1つの部門だけに適用する計画を立てた。だが、それが引き起こしうる悪影響について立ち止まって検討した結果、コスト節約を組織全体に広げて負担を軽くするほうがよいことに気づいた。

 ●回復計画を立てる

 コロナ危機後のニューノーマル(新たな常態)に向けて――それがどんなものであれ――安定性を高めるには、回復計画を立てることだ。

 完璧な計画でなくてもよい。未来は誰にもはっきりわからない。回復に向けた最初の数歩はどのようなものか、従業員に示すためにできることをやればよい。

 たとえ大まかでも回復策を示しておけば、従業員に集中すべき対象を与えることになり、ようやく危機が収束してリーダーが立て直しに取り組む際の負担も軽くなる。その計画に向けた進捗を、少しずつでも示すことで、大きな心理的安定感をもたらすことができる。

 また、緊急時対応策も用意しておこう。たとえば、コロナ危機の最中に人員が発病しても事業を継続できるよう、多くのリーダーは重要職の代理候補を決めており、従業員への異分野研修を通じて役割の互換を可能にしている。こうした対策によって、従業員は衝撃を緩和できるという自信を高める。

 たとえ計画通りに運ばなくても、緊急時対応策(コンティンジェンシープラン)の策定という行為を通じて、変化への適応法が青写真として従業員に示され、安定感が生まれる。それによって、想定外の事態にも対処できるという自信が高まり、より冷静な仕事ぶりと、より迅速な業務復帰につながるのだ。


HBR.org原文:To Build an Agile Team, Commit to Organizational Stability, April 07, 2020.


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