●優先事項への集中力を強化する
劇的な変化の渦中にあると、人は注意散漫になる。何が起きているのか、今後何が起こりうるのかを心配する。
今日私たちが経験しているような極端で危機的な混乱は、非生産的な対処行動と、不適切な判断を招きやすい。脅威を軽視したり、パニックに走ったりするのが例であり、必死の買い溜めで店の棚が空っぽになるのもその現れだ。
より効果的な対処を促すために、リーダーは優先順位を設定する必要がある。
現在の最優先事項は言うまでもなく、「健康と安全」という最も大事なことに、人々の意識を集中させることだ。すなわち、感染拡大を阻止するために他者との距離を空ける(ソーシャル・ディスタンシング)という措置を、リーダーは全力で促進し、強化する必要がある。そのうえで次に優先すべきは、経営を維持するために、どの業務と機能が必須なのかを見極めることだ。
リーダーは秩序立った方法で最優先事項を特定し、それらを従業員に――しつこいぐらいに――伝えねばならない。なぜなら、世界各地の多くの従業員は在宅勤務をしており、新たな注意散漫の種が増え、コミュニケーションのミスが生じる可能性も高まっているからだ。したがって、何を優先すべきかを何度も明確に伝え、それらに人々の意識を集中させるために万全を期す必要がある。
いまこの時期は、「有益だが必須ではない」施策や、システム全体の改革などを推し進めるときではない。自社がサバイバルモードに入っている間はそれらを保留し、優先事項を改めて吟味しよう。例として、一部の製薬会社は、既存のプロジェクトを中断し、パンデミックに関わる抗ウイルス剤とワクチンの開発に労力を集中させている。
●障害を取り除く
安定と信頼を揺るがすような仕事上の障害に、リーダーは目を光らせる必要がある。たとえば、テレワークのシステムとツールが、在宅勤務の必要性の急増に追いつかない場合があることが、早々に明らかになっている。
会社は最大限のサポートを提供しなくてはならない。会議および従業員間の連絡を円滑にするために、ビデオ会議の手段を複数用意しておこう。メインのシステムに不具合が起きた場合の備えとして、代替のアプリをいくつか選んでおくとよい。
就業時間中に子育てもしなくてはならない従業員の負担を軽くするために、子どもの面倒を見なくてよい時間帯に会議を設定するリーダーもいる。また、リアルタイムでなくても見られる、低画質の動画をアップするといった例もある。
仕事での新たなツールとプロセスの導入に伴い、リーダーは部下との連携を密にしておく必要がある。不安定化要因をいち早く見つけて取り除き、創造的な解決法を考えるうえで、その連携が寄与するのだ。障害を予測しておき、回避策を立て、必要な場合はそれらを迅速に展開し、混乱の広がりを抑えよう。
●失敗を最大限に利用する
リーダーはチームや従業員のアイデアを歓迎し、その提案を試してみることで、彼らの間に心理的安全性を醸成できる。だが別の方法として、失敗を全従業員への教育機会として活用するのもよい。
そのためには、叱責を避け、何が奏功し、何がまずかったのかという教訓を引き出す必要がある。週次の振り返りミーティングなどでこうした教育機会のための時間を設ければ、皆に発信しやすい。
リーダーは、個々人やチーム全体との反省会(after-action review)をこまめに開くことで、安定性を高めることができる。ここで必要なのは、安心できる会話を通じて、次の事項を浮かび上がらせることである。彼らが何を学んだのか。新たなコミュニケーション手段に取り組むうえで最善のやり方は何か。どの実験が奏功しなかったのか。
これらの教訓を記録しておけば、パンデミックの収束後に新たな方法で仕事の編成や調整を行う際にも役立つはずだ。
失敗を活かす必要性という点で、フォード、3M、GEヘルスケアによる取り組みは恰好の例である。3社は提携し、マスクや人工呼吸器といった医療用具の迅速な生産に乗り出した。簡素化された生産設計と、部品調達の新たなサプライチェーンに即時適応している。
これは大胆で創造的な試みであり、失敗を最大限に活かすことが求められる。担当チームは、一連の予期せぬ大小の問題の解決に挑んでいるからだ。