(1)ギャップに光を当てる

 自由やコントロールを奪われたという感覚を持たせずに、人に行動を改めさせるには、その人の思考と行動のギャップや、その人が他人に推奨する行動と、その人自身が取っている行動のギャップを指摘することが有効だ。

 たとえば、家にとどまり、外出を控えるよう促したいとする。この種の呼び掛けに抵抗を感じそうな若者に対しては、高齢の祖父母や幼いきょうだいに、どのような行動を取ってほしいかを尋ねればよい。

 家の外に出掛けて、ひょっとすると感染しているかもしれない人たちと接触してほしいと思うだろうか。もし家族に外出してほしくないなら、どうして自分だけ大丈夫だと思うのか。

 人は、一貫性のある行動を取ろうとする習性がある。矛盾のない態度と行動を実践することを好む。そこで、矛盾を意識させれば、人はそれをみずから解消しようとするのだ。

 禁煙キャンペーンでこのアプローチを用いたのが、タイの保健当局だ。たばこを吸うことが健康に悪いと指摘するのではなく、幼い子どもたちを使ったキャンペーンを展開した。

 路上で子どもたちが喫煙者に声を掛け、ライターを貸してほしいと頼むようにした。すると喫煙者たちは、子どもたちの求めを拒む。たばこの危険性について、子どもたちに説教する人も少なくない。

 子どもたちはその場を立ち去る前に、喫煙者に1枚のメモを手渡す。「あなたは僕/私のことを心配してくれました。でも、どうして自分のことを心配しないのですか」

 メモの下部には、禁煙支援のフリーダイヤルの電話番号が記されていた。キャンペーンの期間中、フリーダイヤルにかかってきた電話の数は、いつもの1.6倍以上に跳ね上がった。