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新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために、世界中の政府や公衆衛生機関が、人々の行動を変えさせるという難題に取り組んでいる。だが、「外出しないで」「きちんと手を洗って」などの指図によって行動変容を促すのは、とても難しい。そうした提案は無視されたり、反論されたりしてしまうのだ。本稿では、命令や指示に頼らずに行動変容を促す3つの方法を紹介する。


 いま政府や公衆衛生機関は、人々の行動を変えさせるという難題に取り組んでいる。必要なのは、人々にソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)を実践させ、家の中にとどまるよう促すことだけではない。それを数週間、ことによると数ヵ月にわたって継続させなくてはならないのだ。

 そのために、大多数の政治家や公衆衛生当局者は、人の行動を変えさせる際に最もよく選択される方法を採用している。その方法とは、取るべき行動を指図するというアプローチである。「外出しないで」「ほかの人と2メートル距離を取って」「きちんと手を洗って」「マスクを着用して」といった具合だ。

 いまのところは言うことを聞いている人も多いが、すべての人にそれを長期間継続させることは簡単でない。いまだに大勢で集まっていたり、あるいは再び集まるようになったりしている人たちもいる。

 一部の教会は、地元のリーダーの支持を得て、「家にいよう」という勧告を無視している。また、専門家が提案する時期よりもっと早くビジネスを再開するよう主張する、デモも始まっている。

 長期間の行動変容を促すうえでは、命令や指示はとりたてて効果的な方法ではない。人は誰でも、みずからの行動を自分でコントロールしていると思いたいからだ。「なぜ、この商品を購入したのか/このサービスを利用したのか/この行動を取ったのか」という問いに対して、「自分がそうしたかったから」と答えたいのだ。

 ある行動を取るように他人から言われても、素直に従わず、説得をはね返そうとする。現在の状況で言えば、友人たちと集まったり、頻繁に買い物に出かけたり、マスクを着用しなかったりする。誰かにコントロールされていると感じたくないので、指示に従わないのだ。

 人は、誰かが自分を説得しようとしているとき、それを敏感に察知する。その結果として、防衛反応が高まり、説得のメッセージを無視したり、聞かないようにしたり、ひどい場合は、その提案が誤っているという理由を並べ立てて反論したりする。

「知事は外出を控えるよう呼び掛けているが、これは過剰反応だ。感染が拡大している地域もあるのだろうが、知人で感染した人は一人もいない。それに、感染者の多くは大した症状にならない。大騒ぎしすぎだ」などと言う。高校生のディベート大会で興奮しすぎた出場者のように、提案のあら捜しをし、異論をぶつけて、メッセージの説得力を失わせてしまう。

 では、説得に効果がないとしたら、どのような方法が有効なのか。人に自分で納得させるほうがうまくいく場合が多い。以下では、そのための3つの方法を紹介しよう。