(3)多くを求めすぎない
3つ目のアプローチは、多くを求めすぎないことだ。
たとえば、1日に3リットルの炭酸飲料を飲む肥満男性の生活習慣を改めさせたい、医師がいるとする。医師としては、本当なら炭酸飲料を全面的にやめさせたい。しかし、それを求めたところで男性は言うことを聞かないだろう。
そこで、医師は別のアプローチを試みる。1日に飲む量を2リットルまで減らすよう言い渡すのだ。男性は不満を言うが、この助言に従う。
そこで次の診察時に、1日に飲む量を1リットルまで減らすよう勧める。男性がこれにも成功すると、そのときようやく、医師は炭酸飲料をすべてやめるよう言う。男性は、いまでもたまには炭酸飲料を飲むけれど、体重は10キロ以上減った。
特に危機のとき、公衆衛生機関はすぐに大きな行動変容を実現したがる。すべての人があと2ヵ月の間、一人で家の中にこもって生活すべきだ、などと主張する。
しかし、そのような大きな要求をしても、受け入れられないことが多い。自分たちがいま取っている行動との落差があまりに大きいため、その要求が心理学で言うところの「拒絶の領域」にはまり込み、拒絶されてしまうのだ。
それよりも有効なのは、最初の要求を小さくすることだ。はじめは少しだけ要求し、次第に要求を増やしていくのである。要求事項を細分化して、人々が対処しやすいサイズにする。
政府は、ある面ではこの方法論を、すでに採用している。ソーシャル・ディスタンシングの期間をまず定めて、あとで期間を延長してきた。
だが、こうしたアプローチを活用できる機会は、もっとあるかもしれない。たとえば、小人数の集まりなど一部の制限を解除する一方、コンサートやスポーツイベントは引き続き禁止してもよいだろう。
ソーシャル・ディスタンシングの実践にせよ、買い物に出かける頻度を減らすことにせよ、手洗いの徹底やマスクの着用にせよ、私たちは人々に行動変容を促すとき、強く要求するという方法論に頼りがちだ。繰り返し念押ししたり、事実やデータや理由を示したりすれば、好ましい行動を取るはずだ、という思い込みがある。
しかし最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で行動を制約されることへの反発が強まっていることからも明らかなように、この種のアプローチは長続きしない可能性がある。特に、要求に従うべき期間の終わりがはっきりしない場合はその傾向が強い。
その代わりに、自由を奪われることへの抵抗(「心理的リアクタンス」と呼ばれる)など、行動変容を阻む大きな障害を知り、それを克服するための戦術を採用すれば、どんな変化でも起こすことができる。
HBR.org原文:How to Persuade People to Change Their Behavior, April 20, 2020.
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