(2)質問を投げかける
主体性を奪われているように感じさせないためのもう一つの方法は、問い掛けの形でメッセージを届けることだ。
公衆衛生関連のメッセージは、単刀直入な表現をする場合が多い。「ジャンクフードを食べると太ります」「飲酒運転は殺人行為です」「外出しないでください」といった具合だ。しかし、こうした強い言葉を用いると、人々は脅かされていると感じかねない。
同じメッセージを質問の形で言い換えればよい。「ジャンクフードは体によいと思いますか」
この問いに「そうは思いません」と答えた人は、難しい立場に置かれる。ジャンクフードが自分にとって、体によくないと認めざるをえなくなるのだ。そうすると、その悪い行動を正当化し続けることが難しくなる。
この方法が有効なのは、問いを通じて、聞き手の役割を変えられるからだ。その人物は、反論したり、反対理由を探し続けたりするのではなく、質問にどのように答えればよいかを検討し、その問題に関する自分の思いや意見を考えなくてはならなくなる。すると、その人は助言に従いやすくなる。
人は誰かの指示に従うのはいやでも、自分自身の考えに従うことはやぶさかでない。自分の思考や価値観、嗜好を反映させて、自分で考えた意見を持てば、それに基づいた行動を取る可能性が高まるのだ。
今回の危機で言えば、「もしもあなたの大切な人が感染したら、どう思いますか」といった問いを投げ掛けるアプローチは、長期的もしくは断続的なソーシャル・ディスタンシングと衛生習慣を徹底するうえで、望ましい行動を指示するアプローチより有効かもしれない。