人を第一に考える

 これまで組織によい結果をもたらしてきたコスト削減と利益追求の攻めの姿勢は、現在の状況下では裏目に出る可能性がある。PR会社エデルマンの最近の調査では、ブランドが顧客よりも利益を優先していると感じた場合、そのブランドに対する信頼を永久に失うと回答した人は71%に上った。そう顧客に感じさせた企業が即座に厳しい反応に見舞われたのが、下記の例だ。

・米国プロバスケットボールリーグ(NBA)のフィラデルフィア・セブンティシクサーズのオーナーらは、職員の給与削減を発表してから24時間も経たないうちに、それが誤りだったと認め、謝罪し、撤回したことで、反発を受けることはほぼなかった。一方、北米アイスホッケーリーグ(NHL)のボストン・ブルーインズとチームの本拠地であるTDガーデンの所有者は対応が遅く、結果としてメディアから手厳しく批判された。

・食品宅配サービスのグラブハブは、オンラインで注文した客への割引を開始した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で苦悩しているレストランを支援するためと思われたが、実際にはレストランに割引分の負担を負わせていたため、レストランや客から怒りを買い、ボイコットを求める声が高まった。

 人を第一にしている企業もある。カジノを含む統合型リゾート(IR)を運営するラスベガス・サンズは、運営施設を閉鎖しているにもかかわらず、従業員約1万人に対する賃金の支払いを継続すると発表した。NBAのダラス・マーベリックスは、時間給の全労働者の雇用を維持している。

 全米の約2700人の医師と提携または雇用関係を持つビレッジMDの例を挙げよう。先週、同社の戦略についてティム・バリーCEOに話を聞いた。

 多くの医療機関で患者数が50~75%減少し、医療スタッフや非医療スタッフを解雇したり自宅待機にさせたりしている中、ビレッジMDは人材を維持するためのクリエイティブな方法を模索している。同社は現在、対面診療は最も医療を必要とする人を優先して縮小し、遠隔診療を強化している。

「我々は人員削減に抵抗している。患者と職員の双方にとって、それが正しいからだ」とバリーは言う。

「医療助手を解雇するのではなく、患者とバーチャルな接触を維持するよう彼らに要請した。患者は、混乱していて孤独を感じがちなこの時期に、特別に配慮してもらえることを喜んでおり、職員も患者と関わり続けることをとても喜んでいる。
 レイオフ(一時解雇)をしないと保証することはできないが、状況と、レイオフを回避したいという我々の望みに対して誠実だ。そして職員には、求められていることに関して柔軟であるよう伝えている」