支え、つながる

 今回のパンデミックは、これまでの危機とは大きく異なる形で、個人に影響を及ぼしている。病に倒れる人もいれば、命を失う人もいる。実存的不安の中で、私たちは前に進むために最善を尽くしている。運がよければ自宅で仕事ができるが、失業する人や、感染流行の最前線で働く人もいる。

 子どもたちはオンライン学習に挑戦し、友だちに会いたがっている。皆が高齢の家族らを気にかけている。家賃や住宅ローン、そして数週間前までは当たり前だと思っていた生活必需品について心配している。思いやりと、持続的なつながりを持つ機会が必要とされているのだ。

 リーダーにとってそれは少なくとも、スピードを落とし、柔軟になり、これらの新しい課題に対処する余裕を従業員に与えることを意味する。人々とより深くつながる機会でもある。

 私は先週、世界的な専門サービス企業の米国のCEOに、個人的につながるための時間をつくることの重要性について、話を聞いた。

「組織をバーチャルに結びつけるうえで何が機能し、何が機能しないのか、多くを学んでいる」と彼は話した。「最も貴重な教訓の一つは、非公式で対面の、定められていない時間を設ける余裕を増やすことの大切さだ。通常はビジネス一色の文化の中で、我々は互いに耳を傾け、助け合うための一時停止ボタンを押している」

 彼は、被害が大きい地域の同僚らと、1時間にわたり語り合ったときの話をしてくれた。「私たちはリーダーとして、互いの意見に耳を傾け、助け合うニーズのほうが、その時点の業務処理のニーズよりも重要であることを認識した。シンプルなこの事実を、タイプA[訳注]の人は容易に見逃す可能性がある。しかし、重要なことだ。長い目で見れば、前者が後者を支える」

 再保険会社スイス・リーで米国の生命・健康保険事業を率いるニール・スプラックリングも、個人レベルのつながりを優先している。「私はすべての従業員と顧客とのやり取りを、個人的な話で始め、そして終える」と彼は言う。

「ストーリーを語り合い、彼らが何か特別な支援を必要としていないかを尋ねる。小さなことのように思えるが、意識的にこれを行う時間を設けることが、人間関係を強化し、健全性を維持するのに大いに役立っている」

 個人レベルのつながりが、グループの結束へと広がっている。スプラックリングの直属の部下の一人が先週、スイス・リーで40年間勤め上げ、退職した際、彼のチームはサプライズのバーチャルな送別会を催した。

「その退職者は、直属の部下とオンラインでつながると思っていた。すると、同僚30人以上と私がスカイプのビデオチャットに登場した。そして、一人ずつ言葉を掛けた。とても感動的な時間で、皆、ティッシュペーパーを手放せなかった」

 本稿で説明した内容は、状況とは関係のない、優れたリーダーシップにすぎないと言われるかもしれない。たしかにそうかもしれないが、重要な点を見落としている。優れたリーダーシップを理解することと、それを実践することは別であり、不確実性と自分自身の不安に直面しているときは、なおのことだ。

 今後数週間から数ヵ月、リーダーはふだん以上の力を発揮し、他者の立場に立つ必要がある。人のために、試練に耐えよう。心を開き、弱さを見せよう。コミュニケーションと支援のさまざまな方法も試すべきだ。

 そして、思いやりがあって心が開かれたリーダーシップは、いまだけでなく、将来にわたって報われると信じることだ。

[訳注]野心的で競争を好むなどの性格傾向


HBR.org原文:When Crisis Strikes, Lead With Humanity, April 23, 2020.


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