なぜ、"why"に答えることが重要なのだろうか。

 言い方を変えよう。もし上司に「いまの仕事量に加えて、このプロジェクトにも追加で取り組んでほしい」と言われたら、あなたが最初にする質問は何だろうか。

 それはおそらく、アラームを設定したり、スケジュールを調整したりといった、追加の仕事を遂行する方法(how)とは無関係であるに違いない。誰かにこれまでの行動を変えるように言われたとき、あなたの最初の質問は"why"であるはずだ。なぜなら、「動機づけ」がなければ、新しいことや大変なことをやろうとは思わないからだ。

 あなたのプレゼン相手も何ら変わりない。新たなアクションが必要な理由を知らされなければ、あなたの役に立とうという気持ちにはならないのだ。ご提案はありがたいがと言って、それまで通りの楽な行動を取り続けるだろう。

 "why"に答えるのを忘れることが多いのは、主に次の2つの理由による。

・"what"と"how"を説明することが、聴衆に最も手っ取り早く影響を与えられると思っている。

・"why"の答えは自明であるため、わざわざ説明する必要はないと考えている。

 人が集まって意見を調整することが不可欠な難しい状況、たとえばチームの存在理由である社内イニシアチブのようなシンプルな問題、あるいは現在の経済危機から脱けだすという壮大な問題があるとしよう。

 あなたは、聴衆が自分の計画を実行すれば、会社は無傷で乗り切れると確信しているとする。その方法も知っている。その知見を情熱的なプレゼンテーションにすべて注ぎ込んだ。拍手が鳴り響く。ところが、何も起こらない。

 そんな経験はないだろうか。シナリオも計画も調査も検証も十分で、"what"(何をしようとしているか)と、"how"(どう実行するか)を伝えることにエネルギーを注いだ。しかし、あなたの言う"what"を"how"の通りに実行するだけで生活が改善される当人たちからは何の反応もなく、がっかりして帰る。

 この例を、もう少し詳しく見てみよう。

 リーダーは、"what"(どうすべきだと考えたか)と"how"(考察をどのように適用するのか)を説明する。ほとんどのリーダーが、そのようにプレゼンにアプローチする。特に内容領域専門家(SME)は、自分が共有したい内容に重点を置く。

 多くのリーダーは、"why"を聴衆の観点で考えることすらしない。なぜなら、それは彼らにとってあまりに自明であり、誰もがわかりきっていると思っているからだ。

 反対に、説得力のある"why"をトークに入れたとしよう。「二次感染確率を40%削減し、数千の命を救うことができます」「コンテンツを無料で提供すれば、より多くの人にリーチでき、彼らのキャリアアップを支援できます」

 "why"に答えようとすると、たいてい人に行き着く。あなたが求める行動によって生じる利益を得る人たちだ。すると、重みがいっきに増す。