サステナブルな仕組みが生まれ、業界のプラットフォーム化が進む
最後に、これまでに見てきた4つの変化が引き起こす構造的変化について2つほど例を挙げたい。
1つは外部不経済の内部化である。これは、環境負荷のコストを政府や社会ではなく市場メカニズムや事業者に求める動きをいう。
先に述べたように今後、企業が国内・域内に回帰し、サステナブルなサプライチェーンを構築し、生産設備などの自動化に投資するようになれば、その変化を後押しするような、経済合理性を与える仕組みができる可能性が高い。
例えば、船舶は供給過多で運賃が低水準で推移しており、海運会社にとって環境対応のための投資は競争力に直結する大きな負担だ。海運会社が国際海事機関(IMO)で決められた温室効果ガスの排出量削減を達成するためには、個別の企業の対策よりも経済合理性の高い仕組みの導入が望ましい。
国内の陸送を電動化することによる排出量削減を海運会社が購入できるような仕組みが整うことで、サプライチェーンの構造変化の速度が上がるのではないか。
もう1つは業界ごとのプラットフォーム化である。デジタル化とロボット活用の進展は、物流をはじめとする労働集約的な産業がより資本集約的になる変化を後押しする。人間の介在を不要とするための標準化、プラットフォーム化が進むのだ。
例えば、eコマースの伸張により、都市部へのラスト・ワンマイル配送車両の流入量増加は既に欧米で課題になっている。配送サービスのロボット化は、稼働率の向上のために複数社の荷物を混載するほうが経済合理性は高く、プラットフォーム化しやすい。
ほかにも、環境への配慮から、車両の電動化が進み、物流部門のロボット化も促進するだろう。サステナビリティの観点からも、プラットフォーム化が後押しされるのではないか。
本稿では、今後のサプライチェーンを考える上で重要と考えられる変化点を概観してきた。
もちろん、原油価格の動向など、変化の度合いや速度に影響する変数は多い。また、製造業の企業にとって、市場がコロナ危機前の水準に戻るまでは、直ちに製造拠点配置を変えることは難しく、実際には国内在庫を厚くするなどの対応が現実的である。
いずれにしても、構造的変化を見据え、早期にサプライチェーン戦略を構築しておくことが必要だろう。
※マッキンゼーでは、COVID-19について最新情報を発信している。更なる情報については「知見」「COVID-19:ビジネスへの意味合い」をご覧いただきたい。