50年前、ミルトン・フリードマンが「企業の社会的責任は利益を増大することだ」と書いたのは周知の通りだ。株主至上主義が生まれ、より意識的な資本主義への動きが高まっているにもかかわらず、その支配は続いている。

 それが突然、そんな自明の理でさえ、数ヵ月前のように真実とは思われなくなった。この危機の渦中に、人間性を備えた企業の存在がますます目立っている。彼らは、投資家以外の利害関係者、すなわち従業員、顧客、サプライヤー、そしてより幅広い社会の支援に努めている。

 たとえば旅行業や小売業など、存続が脅かされている企業にとっては、それを選択する余地はないかもしれない。その対極には、この悲劇から利益を得ようとする日和見主義者もいる。だがその中間には、善良な面を見せている企業が、私たちの予想よりもはるかに多く存在する。

 ファッション業界では、工場の生産ラインをマスク生産に切り替えている。あらゆる製造業者が、人工呼吸器の不足を補うために設備を改良している(業界大手のメドトロニックは、需要を満たすために特許や設計図を競合他社に共有した)。

 シンガポール航空は、応急処置の訓練を受けたスタッフを人材不足の病院に派遣。ムンバイの象徴であるタージマハル・パレス・ホテルは、医師や看護師を受け入れ、通勤のリスクと時間から彼らを救っている。

 ウーバーは、医療従事者や高齢者、感染の影響を受けた人のために、無料の配車とデリバリー配達を1000万件分提供している。ウォルマートは、時間給の従業員に現金ボーナスを支給。ユニリーバは、バリューチェーン全体に5億ユーロのキャッシュフロー支援を行った。

 アクセンチュア、リンカーン・フィナンシャル・グループ、サービスナウ、ベライゾンのCHRO(最高人事責任者)らは、従業員の解雇や自宅待機を余儀なくされた企業と、早急に人材を確保したい企業との橋渡しをする「ピープル+ワーク・コネクト」というプラットフォームを2週間ほどで構築し、数百社が参加している。また、競合するグーグルとアップルは、感染者と接触した場合にユーザーに警告するスマートフォン技術の開発で協力している。

 新型コロナウイルスのパンデミックは厳しいものだが、私たち人間がこの地球上に存在するのは互いを労わるためであり、ビジネスはそれを大規模に行える手段であることを改めて思い知らせた。

 資本主義は、野放しにしたときの危険性はあるものの、人知を結集して人類のニーズを満たし、私たちを新たな高みに引き上げるために、これまで生み出された中で最も強力な手段だ。企業が大義に貢献するようになれば、その影響が及ぶ範囲と力は計り知れない。

 新型コロナウイルスによって放たれた破壊的な力は、考え方や社会規範の、急速かつ永続する可能性のある変化を起こすかもしれない。私たちの脆弱性と共感が呼び起こされ、現在の状況を経て、民間企業への期待が根本的によりよい方向に変わる可能性がある。