世界の国々が新型コロナウイルスとの戦いで、一致結束して公正な戦略を推進する姿勢から遠ざかりつつあることは、最近の以下のような動きにあらわれている。
・欧州諸国、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団、ウエルカム・トラストは、新型コロナウイルス関連の医療テクノロジーを迅速に導入することを目指す活動「Access to Covid-19 Tools(ACT)」に総額80億ドルを超す資金提供を約束した。しかし、米国、ロシア、インドは、この取り組みに参加していない。
・製薬大手サノフィのポール・ハドソンCEOは、同社がワクチン開発に成功した場合、米国が「最も多くの予約発注を行う権利」を持っていると述べた。これは、2月に同社が米国生物医学先端研究開発局(BARDA)とのあいだで投資合意を結んだことが理由だとのことだった。その後、欧州連合(EU)当局の抗議を受けて、サノフィは方針を撤回した。
・世界最大級のワクチンメーカーであるインドのセラム研究所のCEOは、同社でつくるワクチンの大半は「輸出に回す前に、自国民のために用いられる」と述べた。
・製薬大手アストラゼネカは、英国から7900万ドルの投資を受けたことにより、同社がオックスフォード大学と共同開発しているワクチンの最初の3000万回分が英国に供給されることを明らかにした。するとほどなく、米国は12億ドルの資金提供を同社に約束し、少なくとも3億回分のワクチンを確保した。ワクチンは、早ければ10月には届き始める見通しだ。この動きは、可能な限り早く米国民にワクチンを届けることを目的に、米国トランプ政権が推し進める「ワープスピード作戦」の一環である。
・トランプ大統領は、世界規模の公衆衛生問題への対応を主導する国際機関である世界保健機関(WHO)への米国の資金拠出を打ち切ることを発表した。それ以降、資金拠出を再開するつもりがあるのか、再開する場合、どの程度の金額を拠出するのかについて曖昧な態度に終始している。
ワクチンをめぐり各国が自国最優先の行動を取り、それが悪影響を生んだケースは、過去にもあった。
2009年、H1N1型インフルエンザ(通称・豚インフルエンザ)により、世界で28万4000人の命が失われた。ワクチンは7ヵ月経たずに開発された。すると大半の高所得国は、自国の製薬会社に生産を求めた。
問題は、これらの国々が製薬会社との直接交渉により大量のワクチンを確保した結果、貧しい国々にワクチンが十分に行き渡らなかったことだ。
米国など、いくつかの高所得国は、中・低所得国へのワクチンの寄贈を約束したが、実際に寄贈が行われたのは、自国民に必要な分を確保したあとだった。つまり、H1N1ワクチンの配分は、感染リスクの大きさではなく、国の購買力によって決まってしまったのだ。