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新型コロナウイルス感染症に一旦の収束が見られる中、オフィスを再開する企業が増えてきた。だが、コロナ禍以前の生活に戻ってしまえば、感染症は再び流行するだろう。企業は従業員と顧客の安全を確保するために、「手を洗う」「マスクをする」という基本的な対策をルール化するだけでなく、それを確実に実行させなければならない。本稿では、人の行動を変えるための5つのヒントを紹介する。


 いまか? もう少し先か? 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大防止のため、事実上ストップしていた経済活動が再開されつつある。

だが、その是非をめぐる論争には、決定的に欠けている重要な要素がある。経済活動再開の成否を決めるのは、「いつ再開するか」よりも「どれくらい声を上げるか」に左右されることだ。長年の研究によると、信頼性の高い企業文化は、身近な同僚の説明責任を確保することによって生まれる。

 数年前、米国の名門病院メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のジョン・ノーズワーシーCEOが、あるエピソードを誇らしげに話してくれた。

 ある日、病院内のエレベーターを降りたとき、手指消毒剤を使い忘れてしまったのだが、すぐに一人の看護師が注意してくれたというのだ。「地位や職層にかかわらず、誰もが忘れっぽい同僚に注意できるようにすれば、予防可能な事故のほとんどは防ぐことができる」。その言葉は正しかった。

 だが、米国の新型コロナウイルス感染症の拡大がピークに近かった4月末、マイク・ペンス副大統領は、マスクを着けずにメイヨー・クリニックを視察した。周囲の関係者は全員マスクをしていた。後日、ペンスはマスクを着用すべきだったと述べたが、この出来事は、権力者のルール違反を指摘することがいかに難しいかを、あらためて印象づけた。

 ここ数週間、同じような出来事がいくつも報告されている。適切な防護具(PPE)の着用を4日間拒否した看護師が、ついに処分を受けたこと。マスクをしていない買い物客が目の前を通ったのに、デパートの店員がまったく注意しなかったこと。あるエッセンシャル・ワーカーのチームで、上司が「よくやった」と部下たちにハイタッチを求め、直属の部下8人の誰一人として警鐘を鳴らさなかったこと――。