安全な職場をつくるための5つのプラクティス

 ●「~してください」と「ありがとう」を徹底する

 変化を生み出し、それを持続するためには、200%の責任を確保するしかない。すなわち、従業員には安全ルールを遵守する責任(第1の100%)があるだけでなく、周囲のあらゆる人にも遵守させる責任(第2の100%)がある。

 安全ルールに違反している人を見かけたら、相手が誰であっても、「~してください」と適切な行動を礼儀正しく促すべきであることを、従業員に教えよう。たとえば、「オフィスではマスクを着用してください」といった具合だ。

 しかし、これでもまだ不十分だ。筆者の会社は数十の病院と協力して、「注意を促す」という規範を設けることにより、患者の安全の改善を図っている。

 現場の看護師たちが、気難しい医師に手を洗うよう注意を促すのは容易ではない。そこで、それを義務化する規範が必要になる。リーダーたちは、安全ガイドラインの注意喚起を受けたら、すぐに「ありがとう」と言い、ルールに従わなければならないことを教えよう。それ以外の対応は、あってはならない。

 ミシガン州の総合病院グループ、スペクトラム・ヘルス(Spectrum Health)は、ここ数ヵ月、医療従事者が互いに注意を促せる体制づくりに励んできた。その一環として、注意喚起を受けた人は「ありがとう」と言い、ルールを遵守するよう要請したところ、数週間で手指消毒の実践率が60%超も上昇した。

 医師たちを「偉そうな態度を取るのではなく、感謝を表明する」ように訓練すると、注意喚起はびくびくしながらやる難行ではなく、リスクの低い規範となる。

 ●通勤が再開されたら新型コロナウイルス・ブートキャンプを開く

「ブートキャンプ」という表現を使うのは、古い行動パターンを打ち砕き、新しい行動パターンを導入するためだ。古い規範をリセットするには、新しい日常がどういうものかまだわからないときが一番いい。

 従業員が職場に復帰したときは、新しい日常とは何かがわからない状態を利用して、ブートキャンプを開こう。30分ほどの短いものでもいいし、数時間にわたるものでもいい。従業員に実践してほしい新しい規範の数によって、所要時間は違ってくるだろう。

 このときに抑えるべきポイントを挙げておこう。

・リーダーがファシリテーターを務める

 ブートキャンプはHR部門に任せたり、コンサルタントに委託したりしてはいけない。リーダーが従業員の前で、自分の本気度と新しいポリシーへのコミットメントを示す必要がある。

・道徳的なメッセージを発信する

 これまでの行動パターンを変える必要性を道徳的な観点から訴えるために、他人のルール違反で感染した友人や家族、あるいは顧客の話をして、問題を身近に感じてもらおう。

・意識して実践させる

 リーダーは新しい安全な行動を命じるだけでなく、従業員にその手順を実際にやらせて、その動きを体に記憶させ、新しい手順を快適かつ当たり前に、必ず実践できるようにする必要がある。

 スペクトラム・ヘルスのブートキャンプでは、ある部門の全スタッフに対して、病室に出入りするプロセスを実践させた。1回目は、入室時に手指を消毒し、退室時にも手指を消毒する練習。2回目は、入室時に手指の消毒を忘れたところを、別のスタッフに注意される場面の練習だ。注意された人は必ず「ありがとう」と伝え、ルール通りに手指を消毒する。

 この練習の所要時間は20分以下だ。実にシンプルな練習だが、これを経験した部門は、そうでない部門よりも、新しい規範の遵守率が大幅に高かった。