変化に対処するための3つの施策

 この数か月間、マッキンゼーは、前述のテーマについて、世界の主要金融機関や規制当局、政府との間で議論と協働を続けてきた。包括的ではないものの、その中で得られた知見を、日本の金融機関が行動を起こすうえで重要な3つの施策に体系化した。

(1)賃金・人員削減以外でコスト削減プログラムを加速させる

 収益の急減と信用コストの増加により、銀行を中心に多くの金融機関が短期的なコスト圧力にさらされている。

 その一方で、ほとんどの金融機関は、人々を守り実体経済の回復に独自の役割を果たしていることも認識している。

 例えば、バンク・オブ・アメリカのCEOは、2020年内は人員削減を行わない、と発表した。

 今後も、金融機関は特に人員削減については慎重に対応していく必要があるだろう。

 とはいえ、金融機関は、FTE(フルタイム当量:フルタイムの人員に換算したときに何人分に相当するか)以外の分野で、コスト削減の取り組みを加速させるよう、一層の圧力をかけられている。

 例えば、多くのグローバル銀行は支店網の20%~50%を一時的に閉鎖しており、一部の銀行では、これまで対面で接客していた顧客をデジタルチャネルに移行させながら、店舗を完全に閉鎖するかどうかを検討している。

 また、対人距離の確保実施策の長期化やリモートワークの増加が予想されることから、リモートワークを組み合わせた、よりアジャイルな組織モデルに移行している銀行もある。

 この場合、高価な不動産を手放して、本社の不動産費用を20~30%削減することを目指すのが一般的である。

(2)顧客セグメントを再評価し、最適な営業活動手法を定義する

 新型コロナウイルス危機は、法人および個人顧客の信用リスクや財務見通しに対し、短期的な影響だけでなく中長期的な影響をももたらすと予想される。

 したがって、金融機関は、新型コロナウイルスによる影響度や、顧客の財務状況や回復力に基づいて、既存の顧客ポートフォリオを再評価する必要がある。

 例えば、建設や不動産業界は、新規投資の凍結や、有料道路や空港などインフラでの収益の損失により、新型コロナウイルスの影響を最も受けた産業の一つである。一般的に、この業界は高い財務レバレッジを伴い、短期間で立ち直るための回復力が弱いと考えられている。

 対照的に、eコマース業界の収益は新型コロナウイルス危機下で急増しており、デジタル・非接触型による、販売から約定までの一気通貫のプロセスが今後さらに人気が高まると予想される。

 新型コロナ危機後、金融機関は新たなセグメンテーションを構築することに迫られるだろう。

 具体的には、既存顧客、さらには見込み顧客に関して、「自社の成長株とすべき顧客」、「支援あるいは維持すべき顧客」、「関係修復すべき顧客」、「契約を打ち切る顧客」などと、顧客セグメントの再評価を行うことが必要だ。

 それにより、より注力すべき顧客が定まる。より注力すべき顧客については、顧客自身のビジネスモデルの変化等から生まれる高度なニーズに対応するため、既存の営業活動の手法が大幅に転換されることは必至である。

(3)デジタルマーケティングとオムニチャネル・オペレーションを強化する

 対面でのやり取りがなくなることはないが、新型コロナウイルスは、さらなるデジタル/リモートチャネルの利用を加速させる。

 オムニチャネル(リアルとオンラインにおける顧客接点の垣根をなくす販売戦略)を実現する、強力なデジタルマーケティング・ケイパビリティを備えた事業者への移行を余儀なくされている。

 例えば、保険の販売は、金融業界の中で最もリアルチャネルでのやり取りがベースとなっている業務の一つである。

 個人保険代理店では、個人の紹介による新規顧客の獲得や、対面でのプラン説明会の開催、保険の販売などを行っている。

 しかし今後、従来の代理店モデルに大幅な変化が起こることが予想される。

 第1に、多くの人は見知らぬ人に会うことに慎重になる可能性が高い。個々の担当者による従来の対面営業では、顧客獲得がはるかに難しくなる。

 また、取引関連業務についても、リモート/デジタルチャネルをより多く使用することが好まれるようになるだろう。

 同時に、顧客が営業担当者との直接対面を望む場合には、より高度にその人に適した、パーソナライズされたアドバイスが求められることになるだろう。

 保険会社に限らず、金融機関は、もはや個々の営業担当者だけに頼るのではなく、デジタルを介した集約型の顧客・リード獲得エンジンを持つ必要がある。

 例えば、中国銀行は、新型コロナウイルスの発生後すぐに、ウェルスマネジメントに関するライブショーをオンラインで開始し、即座に4000人以上を集客した。

 デジタル経由で新たに獲得した顧客リードを収益につなげるためには、デジタルとリアルのタッチポイントを横断する顧客体験を実現しなければならない。シームレスなオムニチャネル・ジャーニーを慎重に設計することが重要である。

※マッキンゼーでは、COVID-19について最新情報を発信している。さらなる情報については「知見」「COVID-19:ビジネスへの意味合い」をご覧いただきたい。