会津若松モデルから見えてきた「つながりの都市戦略」

── 戦略として地方創生を考える際に、アクセンチュアが参画する福島県会津若松市のスマートシティプロジェクトは良いモデルになりますね。

 約10年の取り組みで、会津若松市は現在「日本一のスマートシティ」といえるまでに進化したと思います。当初アクセンチュアは、社会貢献の位置付けで東日本大震災の復興計画の立案サポートに関わっていたのですが、会津若松市が抱える課題を掘り下げているうちに、それが日本の地方に共通する課題であることが分かってきました。

 ここから地方創生のモデルを生み出し、「会津若松モデル」として世に発信していくことの意味は極めて大きいと考え、デジタルで世の中の変革を目指す企業として、本腰を入れて都市戦略に取り組むことになりました。

 同市にはICT研究に特化した会津大学があり、大学を核にICT先進地としての素地が蓄積されつつありました。そこでICTを市の大きな価値として定義しました。以降、先進デジタル技術の実証フィールドとして、市民向けの地域ポータルサイト「会津若松+(プラス)」の構築をはじめ、エネルギー、観光、予防医療、教育、農業といった領域でさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。そして、会津若松市で開発したプラットフォームは、日本全国への広域展開を前提としたスマートシティの「都市OS」の原型になりました。

── ICT産業の集積も順調に進んでいます。

 2019年にオープンしたICTオフィスビル「スマートシティAiCT(アイクト)」にはすでに20社以上が入居し、アクセンチュアも200人規模の事業所を構えています。地域にICT産業を創出し、会津大学の卒業生が、地域で「やりがいのある仕事」に就ける環境をつくることは当初からの大きな目的の一つでしたので、とてもうれしい成果です。しかし、まだまだ卒業生を大量に迎え入れてどんどんプロジェクトを回す状態には至っていません。産業集積の動きは、今後さらに加速させたいと考えています。

── 海外ではスマートシティ計画が頓挫・停滞する事例も出ています。会津若松市の成功の要因はどのあたりにあるのでしょうか。

「市民が決める」ということを徹底した点だと思います。そのための大きな役割を果たしたのが「会津地域スマートシティ推進協議会」です。この協議会には、市と大学、そして私たちのような外部プレーヤーだけでなく、地元のIT企業、温泉旅館、電力やガスなどのインフラ企業、金融、医療機関といった、地域に拠点を置く多様なプレーヤーが参加しており、意思決定と合意形成を行う場として機能しています。これが「会津モデル」の核になっているのです。

 せっかく地域が活性化しても、外部資本が地域資源を使ってビジネスを展開するだけの場になってしまっては、何のためのスマートシティか分かりません。個人情報の扱いに関しても「データは市民のもの」という原則を明らかにし、地域発展のためであっても、データ開示や利用は全て本人の意思に委ねられるという方針を貫いています。