「地方創生」が日本の最重要課題として叫ばれるようになって久しい。すでに日本の市区町村の約半数が、都市機能の維持に必要とされる人口2万人のラインを割っており、あらゆるリソースが集中する一部の大都市との格差は広がる一方だ。しかし、この流れに変化の兆しが見えている。新型コロナウイルスの感染拡大で、物理的な「場」に縛られない新たな生活様式が一気に浸透し、場所の持つ価値が大きく変わる可能性があるからだ。「デジタル化」と「つながり」をキーワードに、日本の地方都市が今後目指すべき方向性について、今年6月に刊行された『2030年日本の針路』の著者の一人であり、アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部マネジング・ディレクターの藤井篤之氏に聞いた。

コロナで無効化する地方移住3つのボトルネック

── 著書においては、地方創生における向こう10年の地方の課題をどう捉え、どう解決していくかを論じられています。新型コロナウイルスの感染拡大が与える影響についてはいかがでしょうか。

著者プロフィール・経歴:
アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ
マネジング・ディレクター 藤井 篤之

2007年にアクセンチュア 戦略コンサルティング本部に入社。以降、公的サービス領域(官公庁・自治体・大学・公益団体など)のクライアントを中心に、調査・コンサルティング業務を担当。現在は、民間企業も含め産業戦略から事業戦略、各種調査事業における経験多数。主に、農林水産業や観光、スマートシティをはじめとする地域経済活性化、ヘルスケア領域を専門とする。国による地域企業支援の取り組み、グローバル・ネットワーク協議会において食・農業領域の分野別エキスパートを務める。

 コロナ以前から、都市圏の若年層を中心に地方移住への関心は高まっていましたが、コロナの影響でデジタル化が加速し、地方移住を阻むボトルネックの解消が大きく進んでいます。

── 地方にとってはポジティブな変化が起きているのですね。

 はい。例えば、地方移住の最大のボトルネックが「仕事」です。アクセンチュアの調査では、個人の地方移住の成否を分ける大きな要因の一つが「働きがい」です。働きがいのある仕事を得られなければ、地方移住は挫折につながりやすいのですが、地方でそれを得られる人は少なかった。ところが今、リモートワークが一気に広がったことで、このボトルネックが解消されつつあります。世の中の多くの人が「仕事はどこでもできる」と実感したことのインパクトはとても大きく、企業も都心にオフィスを持つことの意味を問い直さざるを得なくなっています。より居住地に近い場所にオフィスを分散させる動きも見られ、「職住近接」の意識がこれまでにないほど高まっているのです。

 第2のボトルネックは「教育」です。特に子育て世代は、学校の選択肢が多い東京から離れることに対する不安が大きい。また、地方から都市圏に若者が引っ越す大きな理由が大学進学です。この状況は大きくは変わっていませんが、コロナで遠隔授業の有用性について認知が進んだのは良い傾向です。欧米の有名大学のように質の高い教育コンテンツを無料公開する動きは今後日本でも広がると思いますし、通信制のN高等学校が順調に生徒数を増やし、進学実績を上げている様子を見ても、「1カ所に集まって学ぶ」以外の選択肢が増えていくことは間違いありません。

 第3のボトルネックが「医療」です。必要なときに適切な医療資源がない場所では、子育て世代や高齢者が暮らし続けるのは難しい。しかし、今回、暫定措置とはいえオンライン診療の要件が緩和され、将来的には5G・AIなどの技術で高度医療の遠隔化も進むとみられます。日常中心に、相当な医療ニーズが遠隔で十分対応できるとなれば、地方の医療リソース不足がかなりカバーできます。

── 変化を受けて、地方はどう対応すべきでしょうか。

 いよいよ始まる「本質的な地域間競争」に備えなければなりません。地方に共通するボトルネックが一律になくなれば、人は純粋に「その地域特有の魅力」で住む場所を選ぼうとします。QoL(Quality of Life:社会全体の生活の質・人生の質)に着目し、「その場所にしかない本質的な価値」がクローズアップされるようになるのです。また、働き方や、評価のされ方も変わりますから、個人にとっても「リスキル(スキルの再構築)」が求められるようになります。対面環境なら許されたような、雰囲気や勢いだけの仕事はなくなり、職務に基づいた明確なアウトプットが求められるようになります。