
新型コロナウイルス感染症の治療に取り組む医療従事者は、あまりに大きな不安やストレスを抱えながら、常軌を逸した長時間労働に従事している。個人の責任感や義務感に依存するやり方には限界があり、安定的かつ効率的に運用するための仕組みが不可欠だ。筆者は、「Sカーブ」の考え方をベースに、医療機関はスタートアップ企業の成長法則から学ぶことができると主張する。
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の治療に取り組む医療現場で働く人たちは、常軌を逸した長時間労働が続いている。正式な訓練を受けたことのない業務や役割を担っている人も少なくない。しかも、感情が激しく打ちのめされるような挫折を味わったり、過去に経験のない不確実な状況に直面したりもしている。
医療従事者たちはそうした厳しい環境で英雄的に行動しているが、いまの状態を永遠に続けるのは無理がある。現状は、やるしかないので、どうにか対処しているにすぎない。いずれは疲弊しきってしまい、義務感だけでは続かなくなる。
それに、医療従事者自身が健康を害するケースも増えていくだろう。そうなれば、医療現場が人手不足に陥りかねない。
それだけではない。新たな問題も浮上している。新型コロナウイルス感染症の患者が減りはじめている状況で、どうやってコロナ患者の治療を続けつつ、これまで中止していた治療や検査を再開すればよいのかも考えなくてはならない。いま求められているのは、まったく新しいやり方だ。
こうした問題を考えるうえでは、ビジネスの世界でよく知られている「Sカーブ」の考え方が役に立つかもしれない。これをビジネスの分野で最も重要な概念と位置づけている論者もいる。
その考え方によれば、成功するビジネスはすべて、S字型の曲線をたどり、3つの段階(フェーズ)を経て成功への道を歩むとされている。
3つの段階とは、次の通りだ。(1)成功の方程式を見つけるために幅広く実験を行う段階、(2)見出した方程式を活用して、効率的に、そして安定的に、商品やサービスの供給量を大幅に増やしていく段階、(3)成功の方程式が時代遅れになりはじめて、次の方程式を見つけるために再び発明を行う段階、である。
Sカーブは、いま医療機関が経験している状況と、どのような関係があるのか。
スタートアップ企業とコロナ禍の医療機関のあいだには、いくつかの類似点がある。それらの点に着目することにより、医療機関が置かれている状況についての理解を深めることができる。