医療従事者は起業家と違って、みずからが関わる運命になった状況から抜け出すことは難しい。そこで、「必要は発明の母」ということわざにある通り、必要に迫られて新しい方法論が生み出され始めている。
ここでは、医学的・科学的な発明だけでなく、組織形態や組織運営に関わる発明も必要になる。そのため、新型コロナウイルス感染症によるやっかいな問題を解決しようと思えば、専門分野やセクターを超えた連携が不可欠だ。
ビジネスにおけるSカーブの考え方は主として、フェーズ2で成功を収めていた企業がフェーズ3への移行に失敗する理由を説明するために用いられてきた。移行が必要になりつつあることを示す兆候を、見落としてしまう企業が少なくないのだ。
しかし、フェーズ1からフェーズ2への移行に失敗する企業も非常に多い。大半のスタートアップ企業が失敗する理由は、そこにある。
フェーズ2への移行を成功させるうえで大きな障害になるのは、誰もが忙しすぎることだ。目の前の業務に忙殺されるあまり、どのやり方が有効で、どのやり方がうまくいかないかというデータを精力的に収集し、そのデータに基づいて業務を標準化することができないのだ。
それに輪をかけて問題を難しくしているのは、日々の試練を乗り越えるうえで自分が必要とされていて、自分が英雄的な行動を取っていると感じることにより、人が満足感を味わえるという点だ。
そのような心理が働く結果、人は再現性の高いシステムを築くことの有用性を無意識に軽んじてしまう。実際、研究によれば、現場の臨床医は、プロセスの改善に時間を割くよりも、緊急事態に対処し、問題を回避することを好む傾向がある。
こうした現場にマネジメントシステムを設計し、導入するためには、創造性が不可欠だ。いま医療システムが直面している課題は、ここにある。
HBR.org原文:What Hospitals Overwhelmed by Covid-19 Can Learn From Startups, May 22, 2020.
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