デイビッドもその一人だ。彼がシニアエンジニアを務めるスタートアップは、クライアントの維持に苦戦している。新しい状況に製品を適応させ、いら立つ開発チームをなだめようと、必死に働く日々だ。

 開発チームもデイビッドも、倒産の危機をひしひしと感じている。「仕事でこれほどストレスを感じたことはありません。私は火消しに追われて働き詰めで、懸命に努力していますが、いつ失業してもおかしくないのです」

 妻のレイチェルは新しい仕事を始めたばかりで、台所のテーブルでリモート研修を受けていた。彼女も夫の苦悩に気がついている。「彼はぎりぎりまで巻き上げたバネのようです。見ていても辛いし、正直なところ、一緒に生活していて疲れます。同じ部屋にいるだけで、私もストレスがたまっています」(2人とも仮名)

 何とかデイビッドを助けたい、家の中の緊張を和らげたいと思ったレイチェルは、今後の選択肢を一緒に考えようとした。夕食のときに、夫が失業しても働けそうな会社を提案するようになった。夫の代わりに求人情報も探した。しかし、彼女の善意のサポートは裏目に出てしまった。

「親身になってくれていることはわかっていても、それがさらにストレスになりました」と、デイビッドは言う。「食事の時間が怖くなって、彼女と話すことを避けました。逃げられないと感じました。そんなふうに思う必要はないのに」

 デイビッドやレイチェルのように、同居する共働きカップルの多くにとって、世界的な危機の最中に在宅勤務に移行することは、自分だけの問題ではない。パートナーにも影響を与えるのだ。

 大半のカップルは普段から互いの仕事のストレスを知っているが、パートナーが抱えるストレスとともに生活する日々が、何日も、何週間も続くという経験は、これまでほとんどなかっただろう。気難しい上司の愚痴を聞くことと、大切な人がビデオ会議で非難されている姿を見ることは、別の話だ。

 パートナーの仕事とこれほど密接して暮らすことは、ほとんどのカップルにとって新しい経験である。そして、互いのストレスに対処する方法をきちんと理解しているカップルは、ほとんどいない。

「パートナーのストレスを、あなたが一人ですべて解消することはできません」と、Stress in the City(未訳)の著者であり、職場のメンタルヘルスのコンサルティング会社でマネージングディレクターを務めるエノク・リーは言う。

「パートナーが犯す最大の間違いの一つは、互いの問題を解決しようとすることです。まず、それは不可能です。そして、パートナーにさらにプレッシャーをかけることになります」。高潔な思いがあっても、プレッシャーを増やせば、ストレスが増えるだけだ。

 しかし、自分でパートナーを救うことはできなくても、大切な人がストレスで消耗する姿を見るのは辛い。筆者による共働きカップルの調査でも、ほとんどの人がレイチェルと同じように、厳しい状況にあるパートナーを純粋に助けたいと思っている。

 彼らはパートナーを心配している。そして、自分がパートナーのストレスにどのように対応して一緒に暮らしていくかということが、相手の感情的ウェルビーイングだけでなく、自分にも、自分たちの関係にも、2人それぞれのキャリアにも、影響を与えることもわかっている。

 パートナーが互いの仕事のストレスを軽減するために、実際にどのようなことができるのか、注意すべき落とし穴はあるのかと、リーに尋ねた。

「おそらく最もやってはいけないことは、ストレスを最小限にしようとすることです。『大丈夫だよ』『心配しないで』と声をかけるのは、純粋な気持ちからであり、相手の不安を軽減していると思うかもしれません。でも実際は、パートナーは自分が誤解されている、見下されていると感じるのです」

 パートナーが経験しているストレスの根本的な原因を取り除くことはできないと理解したうえで、パートナーの──そして自分自身の──感情的ウェルビーイングを高められるように、相手の仕事のストレスを受け止めるにはどうすればいいか。

 以下の5つの実用的なステップは、ストレス・マネジメントに関するリーの助言と、ワーキングカップルに関する筆者の研究を組み合わせたものだ。