ミシガン大学の著名な教授で組織理論家のカール E. ワイクは、それを「小さな勝利」と呼んだ。知の巨人であるワイクが提唱した、ルース・カップリング、マインドフルネス、センスメイキングなどの概念は、過去50年以上にわたって組織生活に関する私たちの理解を形成してきた。
しかし、不安定な時期の切り抜け方に関するワイクの最も有力な洞察は、変革を導くことに関しては、より小さなことが、より多くをもたらすということだ。
ワイクは1984年に発表した著名な論文で、自身を含む社会科学者らが社会問題を理解し、それを解決することができなかったと嘆いた。「社会問題が大規模だと捉えられると、イノベーション活動が妨げられることが多い」とワイクは警告した。
そして、「人々は往々にして社会問題を、それに対処する能力をしのぐ形で定義する」と指摘し、皮肉なことに「問題ではないと思わない限り、問題を解決できない」と結論づけている。
小さな勝利の力が物を言うのは、そのためだ。多くの専門家らが、努力し、導き、変化を起こす最良の方法について独自の議論を展開するうえで、ワイクの見識を引き合いに出してきた。
おそらく最も注目すべきは、テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーが10年ほど前に発表した影響力ある著書『マネジャーの最も大切な仕事』で、小さな勝利が「仕事における喜び、エンゲージメント、創造性を刺激する」と示したことだろう。「重要ではないと考えられた出来事でさえ、仕事人生の中枢に大きな影響を与えた」と彼らは指摘した。
だが、小さな勝利が特に重要になるのは、状況が非常に悪いときだ。ワイクは小さな勝利を、「具体的で完成していて実施済みの、そこそこ重要な結果」と定義している。
1つの小さな勝利(たとえば、テイクアウトの食事だけでなく食料品を販売するレストランや、オンライン結婚式を執り行うニューヨーク州の職員など)それ自体は、「重要ではないと思われるかもしれない」とワイクは主張する。しかし、「積み重なった勝利」は、「味方を引き付け、敵を抑止し、以後の提案に対する抵抗を減らす可能性のあるパターン」を示す。
小さな勝利は「簡潔で、明白で、前向きで、議論の余地がない」。さらに、「小さな勝利は分散しているので、世界をゼロサムゲームと定義する人が注目する大きな勝利よりも、それを見つけて攻撃するのが難しい」とワイクは論じる。