私たちは何を行ってきたか
医療機関の中には、新型コロナウイルス感染症が患者やスタッフ、そして病院経営に及ぼす打撃を和らげることに力を入れている機関もある。一方、次に起きることに目を向け始めた医療機関もあるが、対応が後手に回り、支離滅裂な行動になっている場合もある。
ガイシンガーでは、感染爆発が始まってほどなく、危機後に向けた計画の策定を正式に開始し、そのためにすべての部門のリーダーを集めた運営委員会を設けた(ちなみに、私たちは「コロナ後」ではなく「危機後」という考え方をしている。重要な取り組みの多くは、新型コロナウイルスとその影響がまだ残っているうちに始めなくてはならないからだ)。
そうした重要な取り組みは、戦略レベルと実務レベルにおけるイノベーションを目指す活動と位置づけて計画・実行すべきだと、私たちは気づいた。ダメージ緩和策と見なすのではなく、収益回復の手段とだけ考えるのでもなく、あくまでもイノベーションを志すべきなのだ。
現状を土台から揺さぶるような活動を推し進め、変革を長続きさせるためには、上層部の――ガイシンガーの場合で言えば、ジェウォン・リューCEOの――援護が不可欠だと、私たちは理解していた。上層部がお墨付きを与える必要があったのだ。
運営委員会は、臨床、医療保険、人事、財務、IT、薬局など、ガイシンガーの中核事業を11部門選び出した。そして、それぞれの部門ごとに作業グループをつくり、どのようなアプローチを採用すべきかを検討させた。
作業グループには、それぞれのグループの関心領域外の分野のリーダーたちも加えた。この点は、きわめて重要な意味を持つ。変革を遂行するには一部の活動を打ち切ることが不可欠だが、活動の打ち切りに対しては当事者が抵抗する場合がある。その点、部外者がグループに加わることにより、議論に冷静な視点を持ち込むことができる。
これらの作業グループには、変革への4つのステージについて精査させた。その4つのステージとは、(1)緊急性の低い業務の再開、(2)ニュー・ノーマルへの移行、(3)危機後の活動の開始(ニュー・ノーマルの拡大と、感染拡大第2波への対応)、(4)変革後のシステムにおける業務活動の立て直しと業績の回復、である。
作業グループのメンバーに指示したのは、個々のステージで患者と現場スタッフに及ぶ影響を慎重に検討することである。
具体的には、それぞれのステージにおける患者と現場スタッフのニーズは何か、彼らにとって何が変わったのか(あるいは、今後変わるのか)、どうすれば彼らが心から安全だと感じられるのかといったことを考えさせた。また、みずからの部門の活動を「開始すべきもの」「継続すべきもの」「中止すべきもの」に振りわけることも求めた。
作業グループの検討作業では、シナリオ・プランニングの手法を用いた。コロナ以前と同じ日々が戻ってくるとは想定できないため、このアプローチが有効だと思えたのだ。
シナリオ・プランニングのエクササイズでは、実現の可能性がありそうなシナリオ(不要不急の手術や処置の削減が恒久化したり、遠隔診療の診療報酬が引き上げられたりするなど)を考えて、そのシナリオが現実になった場合に患者のケアや病院経営に及ぶ影響を論じさせた。
このプロセスを通じて、エクササイズの参加者は、ニュー・ノーマルがどのようなものになり、新しい状況にどのように対処するのが望ましいかという共通認識をはぐくむことができた。