第2ステージ:
ニュー・ノーマルへの移行

 コロナ禍が始まると、ガイシンガーでは、それまでなかなか受け入れが進まずにいた戦略の導入が加速した。

 たとえば、コロナ以前、ガイシンガー傘下の医療機関全体で、遠隔診療の件数は1日平均40件程度にとどまっていた。ほかの多くの医療機関もそうであるように、患者と医療従事者双方の抵抗感や、診療報酬制度上の制約など、さまざまな要因により、あまり普及していなかったのだ。

 しかし、今回の危機により、遠隔診療の件数は1日平均4000~5000件に増加した(このうち40%はビデオ通話によるオンライン診療)。

 ガイシンガーの医療保険では、ほとんどの公的医療保険と民間医療保険と同様に、遠隔診療の診療報酬を対面診療並みに引き上げた。加入者が遠隔診療を受けた際の患者負担もなくした。

 もっとも、遠隔診療の利用が拡大した最大の要因は、患者の認識が変わったことかもしれない。これまでは「遠隔診療で診ようと言うなんて、この病院は私の症状を軽く見ているんだな」という認識を抱きがちだったが、いまでは「この病院は私のことを心配しているから、遠隔診療で診ようとしているんだな」という認識に変わり始めているのだ。

 医療従事者たちは、遠隔診療に顕著な利点を見出している場合が多い。たとえば、慢性疾患がある患者は通院せずに診察が受けられるし、医療従事者はしばしば、患者の家庭環境を知る貴重な機会を得られる。私たちはこの機運に乗って、新型コロナウイルスの感染が沈静化しても、遠隔診療やその他のバーチャルな手段による診療を増やしていくつもりだ。

 ガイシンガーの薬局部門も、リモート方式で患者の健康を維持・促進する能力を高めてきた。薬の通信販売を始めたのは2年以上前のことだ。これにより、患者と加入者は市場競争の恩恵に浴せる。また、この方法で処方を受けた患者は、それ以外の患者に比べて服薬遵守率が40%近く高いことがわかっている。

 一方、薬局にとっても、コストが抑えられるという利点がある。薬局のコストが下がれば、患者の負担も大幅に減る。患者の費用負担は50%以上減る場合も多い。その結果、患者が服薬を継続できる確率も高まる。

 ガイシンガーは、コロナ以前から薬の通信販売を増やそうと努めてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、患者と医療従事者の双方が、この方法の利点をより明確に理解するようになった。

 患者は、費用負担を減らせるし、薬を手に入れるために出掛けずに済む。対人接触も避けられる。こうした利点もあって、コロナ禍が始まって3ヵ月の間に、月当たりの通信販売利用件数は20%増えている。遠隔診療と同様、私たちは今後も薬の通信販売を継続し、さらに利用を促進したいと考えている。