第4ステージ:収益の回復

 出来高払い方式の診療報酬制度は、不適切なインセンティブを生み出し、コロナ以前から診療のイノベーションと変革の足を引っ張ってきた。

 コロナ禍の重圧を受けて、この方式が機能不全を起こすのは必然だった。新型コロナウイルスの感染拡大により、現行のシステムが元々持っていた問題点が増幅されたのである。既存の診療報酬制度の下、医療機関のビジネスモデルは、必須とは言えない手術や処置を行うことに、そして診療の数をこなすことに大きく依存していた。

 今回の危機により、オンライン診療と在宅診療の普及を加速させる必要性が高まっている。医療機関と患者は、意識的に入院を減らし、救命救急センターの利用を必要最小限に減らそうとしているからだ。

 オンライン診療と在宅診療の普及は、コストを減らし、患者の積極的な関わりを強められるという利点がある。しかし、出来高払い方式においては、こうした努力を進めると、医療機関の収入が大幅に減ってしまう。

 ガイジンガーは長い間、価値ベースの診療報酬システムへ移行する必要性を訴えてきた。つまり、手術や処置を増やすのではなく、病気の予防と良好な結果が医療機関の収入につながる仕組みにすべきだ。

 コロナ禍でわかったのは、新しいシステムへの本格的な移行が不可欠だということだった。小規模な試験プロジェクトはこれまでも一部で行われていたが、それでは十分でない。

 本格的な診療報酬改革を実行するためには、病気の予防と健康が医療の最大の目的になるような制度をつくらなくてはならない。既存の出来高払い方式では、診療報酬の最大化が目的になってしまう。

 必要なのは、強力な経済的インセンティブをつくり、より少ないコストでより好ましい成果を挙げるよう促すことだ。医療提供モデルを根本から変えるための投資に踏み切らせるためには、それなりに強力なインセンティブが求められる。

 たとえば、私たちは、総枠予算制のように、医療機関にリスクを課す仕組みの採用を強く提唱している。総枠予算制とは、特定のグループの人たちの診療に関して、向こう1年間に医療機関が受け取る診療報酬の総額をあらかじめ決めておく方式のことだ。このモデルを採用すれば、適切な医療を受ける患者が増える結果、医療の質が高まり、コストを抑制できる。

 このような変革を実行しなければ、医療システムでは、好ましい結果を生み出すことよりも、医療行為の数をこなすことに重きが置かれ続ける。そして、次に再び感染症の爆発的流行に見舞われたときに、今回と同じように財務面で厳しい状況に追いやられるだろう。

結論

 新型コロナウイルス感染症は、きわめて死亡率が高く、多くの命を奪い、経済に壊滅的打撃をもたらし、これまで盤石と思われていた米国の医療システムに計り知れない負担をかけた。

 私たちは、今回の危機を通じて得た教訓を活かし、医療のあり方を大きく変えなくてはならない。官民の医療保険運営者は、医療機関と積極的に協力して、診療報酬システムの変革を加速させ、新しい医療のあり方を実現すべきだ。

 これを機に医療提供と診療報酬の仕組みを変革し、患者と医療従事者と地域コミュニティのすべてにとって医療をよりよいものにできれば、新型コロナウイルス危機の中に一筋の光を見いだせたことになるだろう。


HBR.org原文:How One Health System Is Transforming in Response to Covid-19, June 11, 2020.


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