Peter Dazeley/Getty Images

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医療システムの根底を大きく揺るがした。コロナ以前に戻りたいという欲求を抱いている人も多いが。だが現実にそれが難しいだけでなく、コロナ危機を契機に、医療業界が長年抱えている問題を解決するためにイノベーションを起こすほうが有効である。本稿では、米国の医療機関ガイシンガー・ヘルス・システムが実践した変革の事例を紹介する。


 新型コロナウイルスの感染拡大は、米国の医療システムを激しく揺さぶった。

 私たちが所属するガイシンガー・ヘルス・システムは、早急に緊急対応計画を実行に移し、緊急性が比較的低い手術・処置と、すべての外来診療をキャンセルした。事務スタッフは在宅勤務に移行し、患者とのコミュニケーションをオンラインで行うケースが急激に増えた。個人防護具や重要な医療機器の不足もはじめて経験した。

 大手の病院運営主体の大半がそうであるように、コロナ禍により、ガイシンガーも財務面で大きな打撃を被っている。経済的なダメージは、最終的には何億ドルにも上る可能性がある。100年を超す歴史を持つ業界が、わずか数ヵ月で途方もない激変に見舞われたのである。

 私たちの業界では、以前の状態に戻りたいという欲求を抱いている人も多い。これは自然な感情だ。しかし、患者やスタッフ、地域コミュニティのためを考えれば、元のやり方に戻るよりも有効なアプローチがあるように思える。

 これまでの仕組みの中には、米国の医療システムがコロナ禍で大打撃を被る要因を生み出したものも少なくない。たとえば、出来高払い方式の診療報酬制度を土台にしたビジネスモデルの、いくつかの要素もそうだ。

 元の状態に戻ろうとするのではなく、ニュー・ノーマル(新常態)をつくり上げることに力を入れるべきだ。そのためには、すでに着手している変革を加速させ、いくつかのまったく新しい取り組みを開始し、いま停止している活動の中で再開すべきでないものを見極めることが必要になる。

 現在、医療システムの変革を推し進める好機が訪れている。これまで不可能だった変革を実現する道が開けたのだ。この前例のない機会を利用して、うまくいっていない仕組みを修正し、患者にとって好ましい結果を生み出すという、より大きな目標を最優先させるように転換しなくてはならない。