複合的ケーススタディ

 筆者が支援してきた複数の高度専門人材をもとに形成した人物像、フアナを例として考えてみよう。

 メキシコから移住してきた労働者階級の両親の下、米国で生まれた彼女は、高校のときに有名なファストフードのフランチャイズ店で最初の仕事に就いた。19歳になる頃には店のマネジャーを務めながら、大学で会計学の学士号を目指していた。

 卒業後、ビッグ3といわれるコンサルティング会社の一つに就職し、公認会計士の資格を取り、数年のうちにアナリストからマネジャーへといち早く昇進。

 2019年11月、自身のクライアントの1社である世界的なホテルチェーンからスカウトされ、人材アナリティクスのグローバルプロジェクトを率いてみないかというオファーをもらい、受け入れた。

 そして、コロナ禍が到来する。フアナのプロジェクトは中止となり、3月31日に彼女は解雇された。2人の幼い娘を持つ母であり、住宅ローンと年老いた両親への責任を夫と分かち合う彼女には、新たな職が必要だ。

 翌1週間を費やし、彼女はつながりのリストを作成した。4月5日、すぐに思い当たる情報提供者と潜在的雇用主に35件のメールを送信した。コンサルティング会社の元上司と同僚たち、大学時代の教授数人、叔父、大学のクラスメートたちなどだ。

 各人からオファーを得る確率は、コンサルティング会社の直近の上司が10%、その他ほとんどのつながりは2%という幅で予測した。下のスクリーンショットに見られるように、この第1グループから最低1件のオファーを得る複合確率は55%にとどまっている。

 そこで4月10日、フアナはリストからさらに30人にメールを送った。ここにはファストフードのフランチャイズ店の元上司数人、コンサルティング会社の元クライアントすべて、そして少数の個人的つながりも加えた。これによって、最低1件のオファーを得る複合確率は78%に増えた。

 しかし、フアナにとっては、まだ十分ではない。4月15日、さらに6件のメールを送った。うち1件は、ファストフード会社の元中南米担当人事リーダー、パブロ・ロドリゲス宛だ。彼とはただ1度、同社の世界会議でフアナが最優秀レストランマネジャー賞を獲得したときに会っている。

 メールを送った72人のつながりの大半からは反応がなかったものの、十数人からは返事が来た。その中で元上司の一人は、自身が経営するeリテールのスタートアップに彼女を誘う意向を示し(フアナが予測したオファー獲得見込みは40%)、別の元上司は彼女を古巣に呼び戻すことに興味を示し(オファー獲得見込み35%)、他にも3人の有望なリードが現れた。

 解雇後3週間も経たない4月18日までに、フアナの進展は下図のようになっていた。

 オファー獲得の複合確率が93%に達した時点で、フアナはリードの創出を終える時期だと判断した。案件を見込みではなく優先度で並べ替えると、次のような結果になった。

 就職の見込みが最も高いと思われる、eリテールのスタートアップでのポジションは魅力的であった。創業者とは一緒に働いた経験があるし、業績も上向くことが期待できたからだ。とはいえ、リスクを伴うベンチャーであり、長時間の多忙な勤務になりそうだ。

 古巣のコンサルティング会社での職は、2番目に実現の見込みが高い。フアナはこの会社と同僚たちが好きだ。しかし同社の方針によって、以前と同じ給与で同じポジションに復帰することになる。そして、自分はコンサルティング業務に戻りたいという確信は持てていない。

 ランキングのトップは、意外にもパブロ・ロドリゲスによってもたらされた選択肢である。彼は創設15年で急速に拡大している財団法人に加わるために、ファストフードチェーンを数年前に退職していた。

 この財団は中南米の高卒の若年貧困層を対象に、質のよい仕事に就くための訓練、機会、継続的努力を支援している。そしてデジタルトランスフォーメーションを推進すれば、もっと多くの人々に――米国のラテン系住民にまで――ごくわずかなコストで手を差し伸べることが可能になる。彼はこの取り組みを主導するにあたり、フアナに貢献してもらえると考えたのだ。

 給与は他の案件よりも低い。しかし、在宅での仕事が認められ、彼女自身のルーツと改めてつながりを形成でき、ラテンアメリカのコミュニティに報いることにもなる。

 自分はこの職に強い関心があると認めたフアナは、パブロ、財団のCEO、創設者と数度にわたりズームで話し合った。そして、中南米の若年貧困層および在米ラテン系人口におけるニーズについてみずから調査し、詳細なデジタルトランスフォーメーションの計画を策定した。

 4月20日に最終面接が行われ、彼女は完璧にやり遂げた。失業から3週間足らずのうちに、この上なく情熱を抱ける新たな職を得たのである。

よりよいチャンスがある

 私たちが直面している甚大な経済・社会危機および地政学的危機は、まだ始まりにすぎない。今後も深く、長く、広範囲に及んでいくことだろう。

 労働市場は悲惨な状況ではあるものの、今日、実際の求職環境はむしろ向上している。ほとんどの雇用主はバーチャルで面接を実施でき、そう望むだろう。

 職があり在宅勤務をしている人は、職場を留守にしなくてはならない理由を説明せずとも、可能な限り多くの面接を受けることができる。失業中の人は、リモート勤務が一般的となっている現状を踏まえ、さまざまな地域をまたいで職を検討できるだろう。

 ロックダウンはまた、人生にとって最も大事なものは何かを深く内省して見直す、格好の機会をもたらしている。よりよい自分、より幸せな自分になることを目指し、みずからのアイデンティティを創造的な方法で再定義できるのだ。これは、自分の才能、目的、野心にもっと見合った素晴らしい仕事を見つける機会にもなりうる。

 本稿で述べたプロセスを踏んでいけば、単にその実現が可能になるだけでなく、実際に成功する公算が高まるはずだ。この方法は、よい時期にも困難な時期にも筆者が助言してきた何千もの人々の役に立ってきた。そしてあなたにとっても、素晴らしい効果があることを心から願っている。


HBR.org原文:How to Find a (Great) Job During a Downturn, June 15, 2020.


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