
企業はこれまで効率の追求を核に、生産量をぎりぎりまで増やしながらコストを切り詰めることで、利益を最大化する戦略を取ってきた。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、その重大な欠陥が見えてきた。万一への備えがなくなり、レジリエンス(再起力)をはぐくめないのだ。筆者らはその解決策として、CFOではなく調達部門が権限を持ち、ステークホルダー同士が動的に結びつく「価値星座」を構築することが重要だと主張する。
私たちは長年にわたり、効率の追求を戦略の核に据えてきた。具体的には、生産体制の限界ぎりぎりまで生産量を増やし、納入業者には生産スケジュールにぴったり合わせて原材料や部品を納めるよう求めてきた。そして、CFO(最高財務責任者)の指導の下、それこそ極限までコストを切り詰め、4半期ごとに利益を計上するようにしてきた。
こうしたやり方は、これまでさまざまな面でうまく機能してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、このシステムに重大な欠陥があることを思い知らされた。こうした行動を取っていては、企業はレジリエンス(再起力)をはぐくめないのだ。
このような状況は変えなくてはならない。危機を乗り切り、長期にわたって繁栄を続けるためには、企業の戦略思考を「ジャスト・イン・タイム」型ではなく、「ジャスト・イン・ケース(万一に備える)」型に改める必要がある。
これは、しばらく前からわかっていたことだった。それなのに、実際には何もしてこなかったのだ。2008年の世界金融危機により、金融機関が最小限の準備金しか持たず、経営の効率を最大限高めることを追求すると、破滅的な事態を生みかねないことが浮き彫りになった。
金融危機のあと、当局は金融機関のレジリエンスを高めるために準備金の増額を求めた。これは、重要な改革ではあった。しかし、ほとんどの国では、この改革のコストを負担したのは納税者だった。
そのおかげで、金融機関の株主と顧客は危機を脱することができた。その結果、金融機関は、変革をビジネスのコストと位置づけ、その後も効率の追求に血道を上げ続けた。その点では、ほかのあらゆる業界が同様だった。
今日の状況は違う。コロナ禍で窮地に陥っている企業を救うために、世界中の国々が大量にお札を刷り、経済に資金を供給してきた。その総額は、5月末までの時点でざっと15兆ドルに上る。いまでは、あらゆる業種で各国政府が民間企業の証券を大量に保有するようになっている。
これにより、今後は政府と民間部門の関わり方が根本から変わる。政府が民間企業の証券を大量に保有するようになれば、市場のあり方に影響を及ぼしたいという政府の意欲も強まるだろう。そのために効果的な行動を取る能力も高まる。
民間経済に対する国家の関与が深まれば、新しい価値観が生まれる。私たちが国家の市民として求めることは、企業の消費者として求めることよりかなり多いからだ。