いま、いわゆる「ステークホルダー資本主義」への移行が急速に進んでいる。ステークホルダー資本主義とは、企業が株主(シェアホルダー)だけでなく、社員、顧客、納入業者、流通業者、投資家、社会全体などの利害関係者(ステークホルダー)に対して責任を負うべきだという考え方である。

 企業はこれまでになく、自社の施設が存在する地域の状況、自社製品が環境に及ぼす影響、自社が事業活動をおこなう多くのコミュニティの規範や文化や権利に目を配ることが求められるようになった。

 企業がこうした新しい課題を戦略的に、そして効果的に達成し、ときに互いに矛盾するいくつもの利害や価値観を満足させるためには、レジリエンスが不可欠だ。

 では、企業はどうやってそのレジリエンスを獲得すればよいのか。そのためには、CFOから権力を取り上げ、調達部門にもっと力を持たせればよい。

 あなたの読み間違いではない。そう、調達部門である。元々、「調達」を意味する"procure"という英語は、いまよりもっと広い意味を持っていた。「何かを実現させる」という意味があったのだ。企業のリーダーは、調達部門にこの古い意味の役割を持たせてはどうだろう。

 企業が調達を戦略的に行えば、「価値連鎖(バリュー・チェーン)」ではなく、言ってみれば「価値星座(バリュー・コンステレーション)」を築ける。価値星座においては、あらゆるステークホルダー同士が動的に結びつく。

 本稿筆者の一人(ラミレス)が1993年にリチャード・ノーマンと共同でハーバード・ビジネス・レビューに執筆した論文で指摘したように、価値星座は極めて強いレジリエンスを持つシステムだ。そのようなシステムは、財務面の効率だけを追求していてはつくり出せない。

 この論文では、家具製造・販売大手のイケアのモデルを紹介した。同社は、顧客を納入業者のように扱い、納入業者を顧客のように扱う。つまり、顧客に、製品の組み立てスペースと組み立ての労働力、製品の配送力を供給させ、納入業者に、アドバイスを提供したり、大量購入をしたり、活用すべき機器や満たすべき基準を指示したりしている。

 この論文で指摘したように、イケアでは、「価値」とは、あるアクターがある段階で計画的につくり出し、次の段階で別のアクターがまた計画的につくり出し、さらに次の段階で……という具合に順次「付加」されていくものではない。それは、多くのアクターが同時に相互作用を及ぼし合いながら共同で創造するものなのだ。

 価値をつくり出して維持するうえでは、この方法のほうがはるかに有効だし、レジリエンスも高い。注目すべきなのは、イケアの価値星座を構成するアクターのすべてが、生産者、売り手、買い手、パートナーでといったさまざまな役割を同時に併せ持っていることだ。

 筆者(ラミレス)はウルフ・マネルビクとの共著Strategy for a Networked World(未訳)で、以上のような考え方をさらに発展させ、イケアのような価値共創の仕組みが実際にどのような形を取るのかを論じた。

 たとえば、フランスの電力大手であるフランス電力(EDF)の例を紹介した。同社は、東南アジアにおける顧客の調達プロセスで自社が力になれると考えて、パートナー企業と共同で現地に「ナムトゥン2」という新しい電力会社を設立した。

 共創モデルで大きな意味を持つのは、ステークホルダーの力関係ではない。すべてのステークホルダーが良好な関係をはぐくみ、それぞれが複数の役割を担うことが重要になる。

 ステークホルダー同士の関係を良好なものにすることで価値を生み出せるようなシステムを設計すれば、誰もが勝者になれる。調達について戦略的に考えることにより、それが可能になる。