(4)状況認識を構築・維持する
蘇生に当たっているチームの究極の目標は、状況に関して共通のメンタルモデルを迅速に採用することだ。それによって全員が互いの役割、患者の状態、そして何をすべきかを確実に理解できる。
複数の人が一つの問題(突然の不整脈など)に同時に、集中的に当たっていると「タスクの固定化」が起こり、チームは緊急性の高いほかのこと(気道閉塞など)を見落としてしまう恐れがある。
蘇生中にチームがタスクの固定化を回避し、幅広い状況認識を維持するため、救急チームは多くの場合、まず室内を静かにさせ、簡潔な治療方針を確認し、引き継ぎを含めた役割について明確な指示を出す。
危機下のメールにも、同様の戦略を採用することができる。不要な情報を避けるため、誰から意見をもらいたいのか、誰からもらいたくないのか(「~でなければ返信はしないでください」)を明示する。
急性事象の際に効率的なコミュニケーションと引き継ぎを円滑にし、メールにも適用できるコミュニケーションのテクニックが「SBAR(situation〈状況〉、background〈背景〉、assessment〈評価〉、recommendation〈提案〉)」だ。
私たちの救急部門では、悪化する新型コロナウイルスの危機に対応する中、他部門とのメールでこのテクニックを使用することで、コミュニケーションを簡潔にし、結果に焦点を当てることができた。
メッセージの本文に埋もれているコメントは、蘇生中のつぶやきのようなものだ。重要なことを伝えるときは、それを最初に持ってきて、SBARを使ってはっきり示す。例を挙げよう。
「状況:フェイスマスクの不足。背景:先週末は土曜日にフェイスマスクの在庫がなくなりました。評価:週末のサプライチェーンを確保するための方策が必要です。提案:金曜日に余分に確保するか、または、供給が再び不足した場合に、管理者が今週末に直接処理を委ねられる担当者を設けることはできますか?」
(5)オープンな情報交換ができる雰囲気をつくる
危機的な状況下でのコミュニケーションは、チームメンバーが心理的安全性を感じているかにかかっている。つまり、彼らが自分の発言の影響を恐れることなく、自由に意見ができていることが重要だ。
EDでは、特に投薬ミスなどの間違いを防ぐために、チームメンバーには率直に発言するよう求めている。しかし、チームメンバーが安心してオープンに話すことができないと、重要な情報さえもしばしば表に出されないことは、現実にある。
メールは、この点が特に困難だ。トーンが伝わりにくいため、人々は率直な発言がしにくいと感じ、コメントの文脈やそこに込める気持ちを伝えるのがさらに難しくなる。特に懸念や問題についてメールで意見するときには、最初にこのことを認識しておくと、文脈を伝えることや、オープンな意見交換がしやすくなる。
心理的安全性は壊れやすく、常にはぐくむ必要がある。覚えておいてほしいのは、外傷室とは違って、メールは1対1のコミュニケーションが可能で、「全員に返信」することで公然と叱責されたとか、恥ずかしい思いをしたと感じる人がいる可能性があるときは、個別に返信すべきということだ。
救急部門と同じで、オープンなコミュニケーションが繰り返され、職場の文化に取り入れられるほど、メンバーはより安全に情報が共有できると感じるようになる。リーダーとしてそれを促進する方法の一つは、経歴の浅いメンバーからの提案を広めることだ。
たとえば、こんなメールを送る。「アンドレがスタッフの安全性について重要な質問をしました。ミリアム、あなたの考えはどうですか?」
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いまこそ、受信箱を生き返らせるときだ。危機的な状況下でのコミュニケーション法については、コミュニティとして学ぶべきことがまだたくさんあるが、メールによるコミュニケーションのための統一したフォーマットをつくることは、このメディアを使った生産的な対話の文化を構築するのに有用だ。
情報の受け取り先を1ヵ所にまとめ、コミュニケーションとアクションアイテムの追跡以外に受信箱を使わないようにすることで、最優先のトピックに対処する際に重要なメールのリソースに集中できる。
EDの医師のようにCRMのスキルを活用して受信箱を管理し、危機的状況下で効果的にコミュニケーションを取ろう。
HBR.org原文:Tame Your Inbox Like an ER Doctor, June 25, 2020.
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