職場で泣いている人を助けるには感情的知性、特にセルフアウェアネス(自己認識)とセルフマネジメント(自己管理)が必要だ。

 セルフアウェアネスは、他人の感情表現が自分に影響を及ぼしていると認識すること、その影響とは何か(不安、心配、怒りなど)を説明できることが求められる。セルフマネジメントは、その瞬間の自分の感情をコントロールし、いま必要とされることへの適応が求められる。

 その「いま必要とされること」とは、助けや支えになる一言を相手に掛けることである。必要とされて「いない」のは、以下のことだ。

・解釈すること。たとえば、「悲しいことがあったのですね」などと言う。前述の通り、人が泣く理由はさまざまであり、なぜ泣いているのかは、本人から言われない限りわからない(自分がなぜ泣いているのか、本人にもわからない場合がある)。

・指図すること。たとえば、「少し休んだほうがよい」などと言う。人は泣いているとき、自分で自分をコントロールできないと感じている場合が多い。次に取るべき行動を相手に伝えることは、たとえそれが思いやりからであっても、その感覚をさらに強めることになりかねない。

・批判すること。たとえば、「泣くようなことではない」などと言う。相手の感情を否定するようなことを言えば、信頼関係が損なわれ、あなたとは安心して付き合えないと思わせてしまう。

 それでは、どんな言葉をかけるべきなのだろうか。

・「ちょっと話を止めましょう。泣いているようですが、少し休みますか? それとも、このまま続けますか? あなたにお任せします」。相手にこの次どうしたいのか、どうしてほしいかを選ばせるための差し障りのない訊ね方だ。

・「少し話を中断しましょうか。どうかされたのなら、何が起きたのかを話してくれませんか」。こう言えば、ドラマチックにならずに、大袈裟に心配を装うことなく、相手への思いやりと関心を示すことができる。

・「泣いているのですね。話を中断しましょう。いまやってほしいことは何ですか。言ってください。その通りにします」。これは、いま起きていることを認めつつ、相手にコントロールを委ねている。

 感情はデータであり、泣くことのように目に見える(そして聞こえる)感情表現は、見過ごしたり、解消しようとしたりしてはいけない。たとえ居心地が悪くても、相手に関心と思いやりを示すことは、感情的知性を備えたリーダーの必要条件である。


HBR.org原文:What to Say When Someone Cries at Work, June 29, 2020.


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