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感染症の流行で大人数で顔を合わせた会議は開けなくなった。もちろん、取締役会も例外ではない。多くの企業がこの変化に苦労しているが、うまく移行できた企業はバーチャルな取締役会のほうが好ましいと気づくケースも多い。「二度と対面の取締役会に戻ることはない」と断言するCEOもいる。本稿では、バーチャル取締役会への移行を成功させる8つの方法を示す。


 誰もがそうであるように、新型コロナウイルスの感染拡大により、企業の取締役たちも素早くイノベーションを行う必要に迫られている。

 メンバーが実際に顔を合わせて話し合うことがままならない状況で、数十年に一度の経済的ショックに対応するために、会社の命運を左右する戦略上の決定を下さなくてはならない。取締役会は、会社を壊滅的危機から救わなくてはならないというプレッシャーと、慣れないバーチャル会議への抵抗感の狭間で、適切なバランスを見出すことが求められている。

 ほとんどの企業の取締役会はそのバランスを取ることに苦労しているが、早くも新しい状況に適応し始めている企業も少なくない。そのような企業は、対面式の取締役会よりバーチャル取締役会のほうが好ましいと気づくケースが多い。

 出席者が地理的に移動せずに済むため、出席率が高まるという、当然の利点だけではない。企業統治が強まり、コラボレーションも改善される傾向がある。バーチャル取締役会では、議題が絞り込まれ、出席者の発言が簡潔になることに加えて、多くのメンバーが会話に加わりやすく、自由闊達な議論が促進され、主要な経営幹部や社外の専門家の話も聞きやすいからだ。

「『二度と昔のやり方に戻るつもりはない。いまのやり方に変更したことで、計り知れない恩恵を受けている』と明言したCEOや会長が何人かいる」と言うのは、幹部人材の紹介とコンサルティングを手掛けるスペンサースチュアートで北米CEO部門の責任者を務めるジム・シトリンだ。

 スペンサースチュアートで取締役会運営のコンサルティングを行っているシトリンによれば、バーチャル取締役会の思いがけない利点の一つは、会話に活力が生まれることだという。

「大きなテーブルを囲んで話し合う場合、出席者がどのような時間を過ごすかは、会議の中心人物とどのくらい離れた場所に着席しているかによって大きく変わる。それに対し、ズームのようなビデオ会議システムを用いれば、全員の顔を正面から見ることができる。この点は、出席者の集中力と連帯感を強め、究極的には意思決定の質を高める効果がある」

 オンラインオークション大手のイーベイは最近、CEO探しをすべてオンラインで行い、一般的なケースよりも迅速に結論に到達できた。たいてい、有力企業のCEO探しには4~6ヵ月をかかる。このとき要した期間は、それよりはるかに短かった。

「バーチャルでCEOの選考を始めた当初は、不安を感じずにいられなかった」と、同社のトム・ティアニー会長は言う。

「まず、候補者の評価を適切に行えるのか、そして、候補者との間に信頼関係を築けるのかという懸念があった。新しいCEOを選び、その人物がCEOとして成功できる環境をつくるうえでは、信頼関係が欠かせないからだ。
 けれども、CEOの選考プロセスが終わる頃には、バーチャルの利点がはっきり見えてきた。取締役会の誰もが候補者たちのことをしっかり見て、その人たちのことを深く知ることができた。私たちはすぐに、バーチャルなやり方に馴染んだ。チームワークが見事に発揮されたと思う」

 配車サービス大手のウーバーで会長を務め、アップル、バイオ医薬品大手のアムジェン、石油大手のシェブロンの取締役でもあるロン・シュガーが言うように、「長年にわたり、企業の取締役会はバーチャル会議のテクノロジーを導入することに消極的だった」。しかし、「対面式の会議とまったく同じ効果があるとは言わないまでも、適切なタイミングでバーチャル会議を行えば、取締役会の成果が大幅に高まる」という。

 私たちは、バーチャル取締役会への移行を目指す企業のコーチングを行ってきた経験に加えて、企業統治の専門家や、取締役経験が豊富で高い評価を得ている人たちの話を聞くことにより、バーチャル取締役会を運営するためのベストプラクティスを抽出した。

 本稿では、バーチャル取締役会を成功させるための方法を8つ紹介する。