(4)信頼を築く
質の高い企業統治を実現するための前提条件の一つは、取締役会のメンバー同士の間に信頼感と親しみを育むことだ。
「取締役会は、意思決定を行い、物事を検討しなくてはならない。そうした役割は、ほかの出席者のことをよく知っている場合ほどうまくいく。そのほうが出席者の言葉のニュアンスを理解しやすいからだ」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学院のアルフレッド・オズボーン教授は言う。
オズボーンは、新聞出版社のタイムズ・ミラー、ノードストローム、証券会社のウェドブッシュ、アルミ製品メーカーのカイザー・アルミニウムなどで取締役を歴任した人物だ。
取締役たちは、ディナーやコーヒーブレイクでの自然発生的な会話を通じて関係を強化し、互いに対して安心感を抱くようになる。バーチャル会議では、そのようなやり取りの機会を自然発生に委ねるのではなく、意識的に計画しなくてはならない。
本稿の筆者(フェラッジ)が創業したフェラッジ・グリーンライトでは、メンバー同士の信頼を育むためのエクササイズをいくつも考案してきた。その中のいくつかは、フォーチュン100のリストに名を連ねる有力企業でもしばしば採用されて、成功を収めてきた。
最もシンプルなエクササイズは、「スイート・アンド・サワー・チェックイン」だ。出席者が順番に発言し、自分が感謝していること――スイート(甘い)な話題――を一つと、私生活や仕事で苦しんでいること――サワー(酸っぱい)な話題――を一つ披露する。
まず、自分について語ることへの抵抗感があまりないメンバーに口火を切らせるとよい。それにより会話を軌道に載せ、自分の弱みを率直にさらけ出すムードをつくり出すのだ。また、モデレーターを起用して話し合いを促進させ、オフラインの会話でも同様のやり取りを続けるよう促すとよい。
もっと突っ込んだ話し合いをするのが「パーソナル・プロフェッショナル・チェックイン」だ。この活動を通じて、いっそう深い絆を育める。このエクササイズでは、出席者がそれぞれ最大10分間、私生活や仕事で困っていること、対処していることを話す。取締役会に新しいメンバーが加わるたびに、年に1、2回、同じことを行う。
このエクササイズを応用して、ミーティングのたびにテーマを変えてもよい。「あなたの世界観に大きな影響を及ぼした経験は?」「どのようなレガシーを残したい?」といった問いでもよいだろう。
重要なのは、適切なトーンを設定すること。メンバーに前もって問いを伝えておいても構わない。狙いは、あくまでもチームへの献身とメンバー同士の信頼感を育むことだからだ。
こうした手法は、多くの有力な団体で採用されてきた。コロナ禍で孤独とストレスが強まる中、これらのエクササイズを実践した人たちは、人々がこれまでになく自分の弱い部分を積極的に語るようになったと感じている。
(5)小グループでの話し合いを行う
ビデオ会議システムのブレイクアウトルーム(ビデオ会議で小グループに分かれて話し合いを行うための「小部屋」)の機能は、率直な話し合いを行いたい場合に有効だ。そうした場では、メンバーが自由にアイデアの問題点を指摘したり、議論全般に異を唱えたりしやすい。
その議論で問われるべき重要な問いには、たとえば次のようなものがある。どのようなリスクに注意を払うべきなのか。ベスト・プラクティスの紹介など、どのような支援や資源を提供できるのか。そして、もっとシンプルな問いとしては、論じられるべきことでまだ論じられていないことは何かも問わなくてはならない。
ブレイクアウトルームで議論するグループは小人数にすべきだ。2人か3人で話すことが望ましい。話し合いの時間も10~30分に限ったほうがよい。大勢で会議を行うときは一握りの人物が議論を支配しがちなのに対し、参加者の数を限定すれば、より深くより広いエンゲージメントを実現できる。
「全員の意見に耳が傾けられるようにするための包摂的な仕組みをつくることができた」と、フェイスブックの最高ダイバーシティ・インクルージョン責任者で、マッシー・グループの取締役も務めるマキシン・ウィリアムズは言う。
ブレイクアウトルームでの会話のあとは、取締役会全体の議論を再開して、小グループで話し合った結果を報告させる。毒にも薬にもならない発言が少なくなることも、小グループで議論することの一つの利点と言える。率直な意見を述べた小グループのメンバーは、目の前でほかのグループが退屈な報告をすれば、裏切られたように感じるからだ。