
新型コロナウイルス感染症の影響で景気は後退し、このままでは失業者が増加することが予想される。その一方で、デジタルトランスフォーメーションが急速に進んだことで、特定のスキルに対するニーズは拡大している。未来の失業者を減らし、社会の新たなニーズを満たすためには、従業員のリスキリング(技能再教育)がカギを握る。本稿では、それを効果的に実行するための3つのポイントを示す。
新型コロナウイルス感染症の拡大が一部の国で下火になってきたが、コロナ禍による不況は始まったばかりだ。
国際労働機関(ILO)によると、2020年5月27日の時点で、世界の労働人口の94%が、経済活動が一時停止している国に暮らしている。幅広い業種の企業が壊滅的な損失を被り、莫大な数の労働者が一時解雇のリスクにさらされている。
ここ数ヵ月間、3つの大きなトレンドが急激に加速した。脱グローバル化、デジタル化、そして企業統合だ。
消費の場が急速にオンラインにシフトする中、企業は数年ではなく数ヵ月で「デジタル・トランスフォメーション」を進めてきた。ソーシャルメディアには、「あなたの会社のデジタルトランスフォメーションを進めたのは誰ですか?」という問いに対して、CEOでもCTO(最高技術経営者)でもなく、新型コロナウイルス感染症を正解とするミームが広がった。
これはユニークな展開だ。大量の失業者が生まれる一方で、特定のスキルのニーズは急速に拡大している。前者には、後者の問題を解決するチャンスがある。同時に、企業、政府、そして労働組合が急いで手を組み、世界の労働者にリスキリング(技能再教育)の明確な道筋を示す必要がある。
ほとんどの主要機関は、コロナ禍が起きるずっと前から、労働者にリスキリングを施す必要性を認識していた。ILOの仕事の未来世界委員会は2019年、「現在のスキルは、未来の雇用とマッチしないだろう。また、新たに獲得されるスキルも、迅速に陳腐化する恐れがある」と指摘している。
同委員会は、政府、事業者、そして労働者が教育と職業訓練に投資することを強く勧告している。それ以来、ILOは「仕事の未来に向けたILO創設100周年宣言」を採択し、政府と事業者と労働組合が共同で生涯学習システムを確立することを、加盟国に呼びかけてきた。
現在、このニーズは単なる勧告ではなく、景気回復に必要な措置になったと、筆者らは考えている。幸い、リスキリングへの投資はすでに一部で始まっている。この1年間で、世界最大の事業者の多くが、従業員の技能獲得支援を約束した。
アマゾンは7億ドルを投じて10万人のリスキリングに乗り出すと発表した。フランスのテレコム大手オランジュも、同様のイニシアチブに15億ユーロを投じると発表した。またプライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、30億ドルもの巨額の投資を行うと発表した。
このようなイニシアチブが広がる中、人的資源管理のリーダーと政府、そして教育機関は協力して、明確に定義された共通ツールキットを構築し、リスキリングのパラメーターとしなければならない。
この領域への投資が、それを最も必要とする人たちの届くようにするためには、以下の3つの問いに対する答えが極めて重要になる。