(3)リスキリングを誰もが受けられるようにするには、どうすればいいか
これまで述べてきたリスキリングの定義とそのフォーマット、費用、所用時間を踏まえると、これを誰もが受けられるようにするために、政府と労働組合が取るべきポリシーは3つある。
●3者の産業別技能委員会(SSC)を設置してエンパワーメントする
産業別技能委員会(SSC)とは、業界内のスキルギャップを見極め、それを縮小することに特化した非営利団体だ。通常、SSCは政府機関と協力して、事業者と労働組合に、新しい重要スキルに関する重要情報を提供する。
たとえば、テクノロジー部門では、英国のテック・パートナーシップ・デグリーズが、SSCとして事業者と大学を結びつけ、「有能な人材がデジタル職に入ってくる仕組みを改善する」。デンマークやオランダ、南アフリカ、シンガポール、アルゼンチンにも同じような組織がある。
●スモールビジネスをサポートする
中小企業(SME)は、コスト的にも技術的にも、従業員のリスキリングにより多くのリソースを必要とすることが多い。したがって、公共部門からの支援が重要だ。
たとえばオーストリアでは、国が資金を拠出し、同国の公的職業安定組織が運営する補助金「インパルス・クオリフィケーション・ネットワーク」の支援を得ることができる。この補助金は、中小企業が組織内のスキルニーズを見極め、研修計画を設計・実施するのを支援すること目的としている。
●リスキリングを個人ベースで利用しやすくする
すべての労働者が、何らかのキャリア開発支援を受けられるようにすべきだ(資金源は個人の寄付、事業者の投資、国の支援のミックス)。すでにこのような仕組みをつくっている国もある。
フランスでは、預金供託金庫が管理し、各地方の職業紹介機関やソーシャル・パートナー機関が運営する「個人学習口座」があり、労働者(被用者と失業者のどちらも)はリスキリングのために年間最大500ユーロ(生涯上限5000ユーロ)を受け取ることができる。このプログラムは事業者、労働者、国の共同出資だ。
さらに、フランスの事業者は今回の経済危機を受け、労働省の「部分活動」プログラムに基づき従業員を一時帰休させ、その間、職業訓練を受けさせた場合、一人当たり最大1500ユーロの費用払い戻しを受けられる。つまり、強制的な帰休期間を従業員のスキルアップに使うことで、力強い経済回復を後押ししようというわけだ。
シンガポールも、政府資金でリスキリングを進めてきた長い歴史がある。スキルズフューチャー・クレジット、技能開発税(SDL)、そしてスキルズフューチャー・ジュビリー基金(SFJF)により、25歳以上の全住民が、リスキリングの個人学習口座に年間370ドル相当を受け取ることができる。このクレジットに使用期限はなく、労働者は定期的な給付金を貯めることができる。
シンガポールではまた、中堅社員がリスキリングを受け、テクノロジー部門に再就職できるよう、情報通信メディア開発庁(IMDA)のプログラムの資金的なサポートをするとともに、ネットワーキングを支援している。
たとえば、美容師のアリフ・ラーマンは、IMDAの支援でリスキリングを受けて、ソフトウェア・エンジニアに転職した。「伝統的な大学に通うとなると、仕事にありつく前に3年間勉強しなくてはいけない」と、ラーマンはIMDAの紹介記事に語っている。そんな時間はないから、もっと短期集中型の訓練課程を探し、そしてスタートアップでの仕事を得た。
米ケンタッキー州ルイビルでは、市長室とマイクロソフト、保険会社フマナ、そしてジェネラル・アッセンブリを含むパートナー連合が、「30日間スキルアップチャレンジ」を立ち上げ、データ分析やソフトウェア・エンジニアリング、デジタル・マーケティングなどの訓練課程を無料で提供し、地元企業への就職をあっせんしている。
このように持続的で連携の取れたアイデアとイニシアチブは、これから訪れる不況の最悪の影響を回避し、よりレジリエントで安定した雇用環境を確保する助けになるだろう。
HBR.org原文:What Would It Take to Reskill Entire Industries? July 10, 2020.
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