(1)リスキリングとは具体的に何を意味するのか
ここ数年、リスキリングとは具体的に何を意味するかについて、多くの著名機関がコンテンツ、フォーマット、投資の点から定義を図ってきた。
●コンテンツ
まず、リスキリングのユニークな点は何か。「重要なのは学習の手段だけでなく、結果をもたらす学習であることだ。これは通常、新しい雇用につながる能力、あるいは新しいタスクを引き受ける能力を意味する」と、この問題について最近論文を書いた経済協力開発機構(OECD)シニア・エコノミストのグレンダ・クイティニは指摘する。
リスキリングとは、特定の職種に必要な技能を学ぶだけでなく、適応力やコミュニケーション能力、コラボレーション能力、そしてクリティビティといったコア・コンピタンスを身につけることを意味する。
●フォーマット
クィンティニのチームは、リスキリングの3つのフォーマットを定義している。
・フォーマル教育:大学や専門学校などの教育機関への再入学を伴う。
・ノンフォーマル教育:研修事業者や雇用者が企画する、学位や資格の取得につながらない学習活動。
・インフォーマル教育:同僚や上司からの学ぶことで、レジャー活動中の学習も含まれる。
各従業員、事業者、政府にとってどのフォーマットがぴったりかは、どのような結果や状況を得たいのかによって決まる。
たとえば、現在の経済危機では、多くの労働者にとって、スピードとアクセスと雇用につながる可能性が最も重要な要因だろう。だとすれば、短期間のインフォーマル教育が最も有効である可能性が高い。
一方、景気が回復したときは、より専門的で学位につながる学習のほうが価値があるように感じられるかもしれない。その場合は、フォーマル教育が最善となる。
●投資
世界経済フォーラムとボストン コンサルティング グループ(BCG)は、昨年発表した論文で、米国におけるリスキリングのコストは一人当たり約2万4800ドルとの見方を示した。
これを採用、解雇、新人研修のコストと比較すると、「社外から採用するコストは、社内の人材を育成するコストの6倍にも達する可能性がある」と、教育スタートアップのジェネラル・アッセンブリの委託で調査を行った、コンサルティング会社ホワイトボード・アドバイザーズのジョシュ・バーシンは言う。
この数字は、業種やポジションにより大きく異なるが、事業者や政府がホリスティックな観点からリスキリングのコストを検討する必要性を示している。
これは従業員、事業者、そして政府が分担すべき投資だ。なぜなら、それぞれが、そのリターンの恩恵を受けるからだ。しかし、こうした投資が最も必要とされているいま、それは不平等に負担されている。
従業員は意欲と関心を示してきた。コロナ禍が始まって以来、オンラインコースの需要は急拡大したと報じられている。事業者側では、一部企業が先行しているものの、リスキリング・イニシアチブに「有意な投資」をしている企業は17%しかないと、デロイトは報告している。
コロナ禍の長期的な影響に対処するためには、こうした投資の調整と拡大に向けた努力がもっと必要だ。