(2)リスキリングにはどれくらいの時間がかかるのか

 この問いに対する、よく聞く(そして批判されている)答えは、心理学者K. アンダース・エリクソンが示した「専門性を獲得するためには、1万時間意図的な練習が必要だ」というものだ。

 一方、『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる』の著者ダニエル・コイルは、意識的かつ長期的なコミットメントの重要性を論じている。そのようなディープなコミットメントをすれば、新しいスキルをはるかに少ない練習量で習得できるというのだ。

 正解は人によって異なると、筆者らは考えている。だた、リスキリングを成功させたければ、それなりの時間を投入する覚悟が必要だと言ってよさそうだ。

 たとえば、ジェネラル・アッセンブリが、テクノロジーやデータなどデジタル関連職を目指す人向けに設計した「イマーシブズ」という課程を見てみよう。ほとんどの参加者は大卒だが、希望する分野の経験はほとんど、またはまったくないことが多い。この課程は、計480時間のオンラインあるいは対面授業からなり、基本的に12週間で集中的に受けることになる。

 この課程は、参加者が希望する職種をシミュレートした複数のプロジェクトからなり、ジェネラル・アッセンブリは、プロジェクトをこなし、十分なフィードバックを得るために必要な時間を480時間と判断した。それは、参加者がクラスメートと強い絆を築く時間でもある。こうした絆は、実際に仕事を得たとき、サポートシステムや継続的学習ソースとして機能する。

 2018~2019年、この課程の修了者の約90%が半年以内に仕事を得た。したがって480時間は、新しいスキルを獲得するのに必要な時間として一定の目安になりそうだ。

 中南米のNGOラボラトリアが運営する半年間のブートキャンプも、一つの目安になりそうだ。ラボラトリアは女性を対象に、ウェブサイト作成、ユーザーエクスペリエンスのデザインといった、需要の高いテクノロジースキルを教えている。ラボラトリアによると、修了者の80%が仕事を得て、収入はそれまでの平均3倍に上がるという。