●技術

 IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン、データレイク、人工知能(AI)など、新興の技術が秘める新たな可能性には驚くべきものがある。その多くは使いやすさが向上しているものの、特定の技術が変革機会にどう貢献するのかを理解し、その技術をビジネスの特定ニーズに適用して、既存のシステムと統合するという仕事は非常に複雑だ。

 さらにやっかいな点として、大半の企業は膨大な「技術的負債(technical debt)」、すなわち社内に根を下ろして変更が難しいレガシー技術を抱えている。これらの問題を解決できるのは、広く深い技術知識を持ち、事業部側と手を携えて取り組める人材に限られる。

 こうした難しい課題もさることながら、もっと重要な問題がある。事業部の人々の多くは、IT部門に大きな変革を推進する能力があるのだろうかという不信感を持っている。なぜなら、IT班の多くが重視しているのは「明かりを灯し続ける」こと、つまり稼働をそのまま続けることだからである。

 しかし、DXは最終的に組織全体のITを統合する必要があるため、信頼の回復は不可欠だ。そのためには技術者はいかなる技術イノベーションにおいても、ビジネス価値を提供し、実証しなければならない。

 したがって技術領域のリーダーには、優れたコミュニケーション能力が求められる。さらに、イノベーションと技術的負債への対処を両立できるような技術上の選択を行うための、戦略的センスも問われる。

 ●データ

 今日の多くの企業におけるデータは、その大半が基本的な品質基準に達していないという残念な現実がある。DXを厳密に行うためには、データの質とアナリティクスはもっと格段によいものが必要だ。

 DXはほぼ必ず、次の事項を伴う。新たな種類の非構造化データ(例:運転手が撮影した車両損傷の写真)への理解、社外の大量のデータ、専有データの活用、そしてこれらすべての統合である。同時に、使われていない(そして今後も使われない)大量のデータを削除する作業も伴う。

 データは興味深い矛盾を突きつける。ほとんどの企業は、データの重要性と自社データの質の悪さを知っているにもかかわらず、それに対処する適切な役割と責任を設けないため、膨大なリソースを無駄にしているのだ。こうした落ち度のすべてが、IT部門のせいにされることも多々ある。

 技術領域と同様、データについても相当に広く深い知識の持ち主が必要だ。さらに重要なのは、組織の前線で働く大勢の人たちに、データの利用者および生成者という新たな役割を引き受けるよう納得させる能力である。

 これはつまり、彼らにとっていま必要なデータと、変革の後に必要となるデータについて熟慮を重ね、伝達するということだ。そして前線の従業員らに、データを正しく生成できるよう、業務プロセスとタスクの向上を支援することも伴う。