●プロセス

 変革の要件として、エンドツーエンドで考えるマインド、顧客ニーズを満たす方法の再考、業務上の諸活動間のシームレスな連携、サイロ横断的に管理する能力などが挙げられる。これらはプロセス志向と相性がよい。

 しかし多くの企業では、プロセス管理――縦割りの壁を超える水平的な、かつ顧客重視のアプローチ――と、従来の階級思考との折り合いをつけるのは難しい。結果的に、この効果的なアプローチは勢いを失うことになる。

 だが、それなくしては、変革は一連の漸進的な改善にとどまってしまう。それらは重要で有益だが、本当の変革ではない。

 プロセス領域の人材を育てるには、「猫の群れを統率する」(統制不可能な集団をまとめるという難事をこなす)能力を重視するとよい。すなわち、既存のプロセスの改善と新たなプロセスの構築のために、サイロ群をまとめて顧客の方向に向かせる能力だ。

 加えて、どの場合に漸進的なプロセス改善でこと足り、どの場合に抜本的なプロセス改革が必要なのかを理解する戦略的センスも求められる。

 ●組織変革能力

 この領域に含まれるのは、リーダーシップ、チームワーク、勇気、感情的知性といった、変革のマネジメントで必要となる諸々の要素である。

 幸いにも、この領域については長年にわたり多くの論考が書かれているため、本稿で改めて取り上げはしないが、一つだけ指摘しておきたい。DXで責任を担う者ならば誰もが、この分野に精通していなければならないのだ。

 筆者らの手元には確固としたエビデンスはないが、技術やデータやプロセスに傾倒する人は、変革の人間的側面を重んじる傾向がやや弱いように思われる。当然ながら筆者らは、上述してきた内容をリーダーらに推奨する中で、優れた対人スキルを兼備する人材を探すよう強く促している。

 もし見つからない場合、代わりに「紫の人材」をDXチームに数名入れるとよい。つまり、技術側(赤)とビジネス側(青)、両方の面々とうまくやれる人である。

 ●すべてを総合する

 ここまでは、技術、データ、プロセス、組織変革能力という領域について、それぞれ別個の存在であるかのように論じてきた。しかし、もちろんそうではなく、各領域はより大きな全体の一部である。

 技術はDXのエンジン、データは燃料、プロセスは誘導システム、組織変革能力は着陸装置だ。すべてが必要であり、うまく連動しなければならない。

 大半の企業を悩ませ、DXの大敵でもある「システム間の齟齬」という問題を考えてみよう。これはどの領域に属するだろうか。

 前述したように技術の問題でもあるが、プロセスの甚大な非効率にもつながる。さらに、その元凶は堅牢なデータアーキテクチャの欠如であり、組織の体制や社内政治といった変えにくい事象も絡んでいるかもしれない。したがって、いずれの領域が問題解決を主導してもよいといえる。しかし最善の解決策を見出すには、4領域の連携が求められるのだ。

 ほとんどのビジネスリーダーにとって、各領域への深い理解がなければ、DXが秘める大きな可能性を認識するのは難しい。これは多くのDXにおける失敗要因である。とはいえ当然ながら、必要な知識と能力のすべてを一人の個人が有していることなどない。だからこそ、各領域から人材を集結させるのだ。

 最後に、技術、データ、プロセスへの取り組みは適切な順序で進めなくてはならない。自動化の取り組みならば、うまく機能していないプロセスを自動化しても意味はないと通常は考えられるため、最初にプロセスの改善や改革が必須となる場合が多い。

 一方、AIの大量導入を目玉とするDXもある。質の悪いデータは優れたAIモデルの開発と導入を阻害するため、この場合は最初にデータに取り組むべきだろう。まずは最終目標を見据え、それを達成するために最適となるよう工程の順序を組み立てればよい。

 DXは企業の最も差し迫った問題にフォーカスできるし、そうすべきである。優先事項が何かによって、必要な人材もあぶり出されてくる。たとえば顧客関係の変革を主眼とするなら、DXチームに入れるべきデータ担当者は顧客データに関する特別な専門知識の持ち主、プロセス担当者は販売・マーケティングのプロセスの専門家などがよいかもしれない。

 とはいえ、本稿で述べた4種類の専門性を有しながら、以前に何らかの技術主導型変革の創出と遂行に携わり、成功した経験を持つ人材がいれば、いっそう重視すべきである。


HBR.org原文:Digital Transformation Comes Down to Talent in 4 Key Areas, May 21, 2020.


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