まず思いつく最も一般的な対策として、カフェインを取り上げてみよう。

 カフェインは、仕事の現場で最もよく使われている薬の一つだ。それはすなわち、慢性的な睡眠不足の状態に陥ると人はカフェインを摂りたくなるということだけでなく、カフェインが問題を解消してくれると多少なりとも期待していることを示している。

 その行動にまったく根拠がないわけでない。カフェインには、睡眠不足によるさまざまなパフォーマンスの低下を少なくとも部分的、短期的に帳消しにする効果がある。

 しかし、カフェインの摂取が睡眠不足の影響を見えにくくし、睡眠がもたらす根本的な回復にはつながらないことを考えれば、長期的な対策としてはお勧めできない。それだけでなく、カフェイン摂取後の数時間は、眠る力が妨げられるため、翌日さらに睡眠不足になる可能性がある。

 そのためカフェインは戦略的に使用し、最悪の事態のためにセーブするのがベストだ。

 次に思いつく対策は、実践するのが難しい。それは、仕事を切り上げるタイミングを知ることだ。

 睡眠不足の状態で仕事を続けると、認知機能に障害を来たし、そのためにミスを犯しやすくなり、仕事の質も低下しやすい。それだけでなくリーダーが睡眠不足の場合、自分のチーム全体の成果を損なう可能性がある。このことから、眠たいときに仕事をしたことで生じた問題により損なわれる価値が、仕事をした時間に創造される価値を上回ることが考えられる。

 そのため、十分な休息を取るまでは仕事をしないことが最善の策といえるだろう。必要なだけ睡眠が取れない場合には、少なくとも仮眠をとろう。20分の短い休息でも、その後の効率が大きく上がることがある。

 とはいえ、休息を取るまで仕事が待ってくれないときもある。その場合の次善の策は、睡眠不足の状態で実施するタスクを戦略的に考えることだ。

 調査によれば、睡眠不足の弊害が最も顕著に現れるのは新しいタスク、創造性やイノベーションを要するタスクだ。反対に、創造性を必要としないルーチンの仕事ならば、睡眠不足の悪影響を受けにくい。人がよく言う「居眠りしながらでもできる」は便利な指標であり、これを目安にどのタスクにいつ取り組むかを判断するとよいだろう。

 同様に、睡眠不足のときには、仕事でミスを犯すリスクが高くなるので、「眠い自分」が影響力の大きい重要な仕事をするのはできるだけ避けたい。その仕事は「十分な休息を取った自分」に取っておこう。