自宅にいながら管理される従業員の体験

 リモートワークに対するマネジャーの認識は、従業員に影響を及ぼすのだろうか。今回の調査では、マネジャーと彼らの実際の直属部下を関連づけることはできなかったが、筆者らによる従業員データの分析を踏まえると、この問いの答えはイエスである可能性が高い。

 この分析は、週4日以上の在宅ワークをしている617人の従業員のみを対象とした。この中で、綿密な監視を受けていると答えた人は、かなりの数に上る。

 上司から頻繁に仕事を査定されているとした人は21%(「わからない」は24%)。自分のスーパーバイザーやマネジャーは「頻繁な点検を通じて、非常に厳しく目を光らせている」とした人は11%(「わからない」は21%)であった。

 監視の度合いが強いと答えた従業員は、技能が物を言う職(例:営業や体を使う仕事)に従事している傾向が高い。これは、非管理職・非プロフェッショナル職のマネジャーのほうがリモートワーカーへのネガティブな態度と部下への不信感が強いという、筆者らの調査結果と整合している。

 また、自分の上司から職務遂行能力を信頼されていない、と強く感じている従業員も多い。上司から「職務能力に対する信頼の欠如を表明されたことがある」に同意した人は34%に上った。職務の遂行能力を疑われている、および必要な知識を持っているのか疑問に思われている、と答えた人も似たような割合を占めた。

 さらに多いのは、「常時の対応を求められている」と感じている従業員である。たとえばメールや電話にすぐに応答する、いつでも連絡が取れるようにしておく、就業後の時間にも対応するなどだ。

 これらの結果は、「常時オン」の文化が在宅ワーカーに広がっている表れである。携帯電話などICTの活用の普及によって生活の多くの場面に浸透している現象の一つであり、リモートワーク環境にもまん延していることが示されている。

 きわめて重要な点として、在宅ワーカーのこうした体験はネガティブな影響を及ぼしていると見られる。

 第1に、人口統計的な諸要因を調整後の回帰分析によると、強度の監視を受けている従業員、および上司から信頼されていないと考えている従業員は、仕事での不安が強い。

 監視レベルが低い(5段階で2以下)と答えた従業員のうち、頻繁または常に不安であるとした人は7%のみだ。しかし監視レベルが強い(5段階で4以上)と答えた人の場合、仕事中に頻繁または常に不安な人は49%に上った。監視がもたらすこの影響は、コロナ禍における精神衛生上の課題を踏まえると深刻な問題である。

 第2に、綿密な監視と常時対応のプレッシャーを受けている従業員は、仕事と家庭の葛藤(例:育児上の必要事項によって、職務遂行能力に支障が出るなど)がより大きい。監視が緩いと答えた人のうち、仕事上の義務が家庭生活を妨げているとした人は26%。しかし、監視が強いと答えた人については、この割合は56%に達した。

 これらの結果は、「常時オン」の要求が仕事と家庭の衝突を強めることを示す先行研究と一致する。ただし現在においては、このやり方はいっそう有害かもしれない。子どもが在宅授業で家にいるといった事情も含め、人々は平常時よりもさらに負担を伴う状況で働いているからだ。

 第3に、従業員は物理的に机の前に座り、綿密な監視を受けてさえいれば、成果を上げるはずだ――こう考えるのは、生産性の観点から論理的ではない。過剰管理は、能力を最大限に発揮させるうえで効果的な方法ではないのだ。

 筆者らの調査結果もこれと一致する。「自分は信頼されていない」という感覚が強い従業員ほど、主要任務をうまく遂行しているという自己認識が低いことが示されている。