さまざまなタイプの社員や部署のエンゲージメントをはぐくむことができれば、当初は途方もない難題に見えた障害も克服できる場合がある。カギを握るのは、人事に人間性を取り戻すことだ。
単にややこしいだけの問題と複合的な問題の違いは、社員のパフォーマンス・マネジメントについて考えるとわかりやすい。
旧来の考え方では、ルールにより社員の行動を誘導すべきものとされていた。筆者の経験から言うと、法務部や顧問弁護士は人事部門のリーダーに対して、訴訟を回避するためにリスク緩和重視の思考様式を採用するよう執拗に主張する。
そのような思考様式に従うと、官僚主義的な文化が生まれる。問題が持ち上がると、それがどんなに小さな問題だったとしても、それに対処するための新しいルールや方針、慣行がつくり出される。
おまけに人事部門のリーダーたちは、「すべての社員を同じように扱うべし」という発想を絶えず念押しされている。実際には、同じ人間は二人とおらず、同じ局面は二つとないことを考えれば、こうした姿勢は公正さを損ない、適切な判断を妨げる。
このようなシンプルなアプローチによっては、未知の複合的な問題を解決できない。ゲームソフトウェア制作会社アクティビジョン・ブリザードのケースは、その典型だ。
同社の人事部門のリーダーたちは、新型コロナウイルスの感染拡大という現実に直面して、リモートワークに関する自社の方針がいかに柔軟性を欠いているかを思い知らされた。仕事と育児を両立させたい社員や健康上の問題を抱えている社員のニーズに、適切に応えられていなかったのだ。
そこで同社は、硬直的にルールを徹底しようとするのではなく、素早く対応策を打ち出した。具体的には、勤務時間を柔軟に選べるようにしたり、リモート勤務でもシステムにアクセスできるようにしたりするなど、これまでは考えもしなかったような方法で社員をサポートするように転換したのだ。
未知の複合的な問題への対処を意識している人事リーダーは、オープンで明確なコミュニケーション、楽観的な想定、セルフマネジメントが会社の業績を向上させると考えている。
そこで、ルールを決めて違反行為を処罰するよりも、具体的な問題とその影響についてチームのメンバーに伝えることを好む。このように感情的知性(EI)を活用するアプローチは、生産性とエンゲージメントを高める効果がある。
問題が報告されたときは、教科書的な解決策に飛びつくのではなく、問題の根本原因を探ることを考えるべきだ。「何が障害になっているのですか」「どのように対処するつもりですか」といった、イエス/ノーでは答えられない問いを社員に投げ掛けよう。
常に頭に入れておくべきなのは、社員の大多数が善良な人たちで、問題を示されれば解決したいと思うものだという点だ。それを前提にすると、ルールを言い渡すよりも、社員が長期的な問題解決策を考えるのを後押しするほうがよい。