●自社の価値観を土台に据える

 人は危機のとき、恐怖とパニックが原因で脊髄反射的な行動を取りがちだ。進歩的な組織ですら、しばしば古い思考に戻ってしまう。強烈な重圧を受けると、リーダーが社員に配慮せずに、専制的な決定を下すケースが珍しくない。

 人事部門のリーダーも例外ではない。そのような行動を取りたいという衝動を抑えるために、人事部門のリーダーは公正な姿勢と社員に対する熱い思いをいっそう重視すべきだ。

 複合的な問題に対処する思考様式を実践するには、自社が重んじている価値に立ち戻り、極度の重圧がかかる局面で、それを基準に決定を下す必要がある。成功している企業はことごとく、いくつかの重要な原則を土台にビジネスやその他の活動を展開している。組織は順調なときも逆境のときもそうした原則に立脚してミッションを実行すべきだが、現実には形骸化しているケースがあまりに多い。

 しかし、このような行動を実践できれば、組織のあり方を根底から変革できる可能性がある。実際、雇われて働いている人の88%は、価値とミッションを重んじることにより、好ましい職場文化が形づくられると考えている。

 具体的にはどのようにして、みずからの価値観を指針に意思決定を行えばよいのか。以下に、多くの人が抱いている価値に基づいて意思決定を行う際に指針となる問いを、いくつか紹介する。

 コミュニケーション重視の価値観

 以下の問いを考えてみよう。

・どのような情報を社員に知らせていることが、社内の透明性の向上につながっているか。どのような情報を知らせれば、透明性を高められると思うか。
・社員はどのような情報を欲しているか。
・どのような情報を提供すれば、社員は重要な意思決定に参加できていると感じられるか。

 信頼重視の価値観

 以下の問いを考えてみよう。

・もしあなたが大多数の社員を信頼できていれば、あなたの行動はどのように変わるだろうか。
・信頼を高めることの妨げになっている要素は何か。
・信頼を高めるために、リーダー自身が取れる行動は何か。

 エンゲージメント重視の価値観

 以下の問いを考えてみよう。

・コロナ禍により、社員はどの程度影響を受けているか。
・この問題に関して、社員はどのような有益な経験や知識を持っているか。
・社員を関与させることがタブーになっている事柄はないか。あるとすれば、どのような想定がタブーを生んでいるのか。

 本稿で紹介したアプローチを実践すれば、ここで述べた以外にも、いくつかの大きな恩恵が得られる。

 みずからの価値観を判断基準にすれば、ストレスがやわらぎ、時間が節約でき、結果も改善する。実際、利益や成長以外のことも重んじる「Bコーポレーション」の認証を得ている企業は、同規模の企業と比べて、コロナ禍を生き延びる確率が63%高いという。

 あなたが企業の人事部門で働いているのなら、会社の良心を担うことがみずからの役割だと肝に銘じてほしい。これは常に重要なことだが、今日のような状況ではとりわけその意義が大きい。

 大企業のリーダーの中には、みずからが前面に出て、自身の抱く価値に沿って行動するよう全社に求める人たちがいる。あなたもそのような役割を担うことができる。

 というより、そのような役割を担わなくてはならない。そして、その役割を果たすためには、未知の複合的な問題に対処する思考様式を持つことが有益なのである。


HBR.org原文:How HR Leaders Can Adapt to Uncertain Times, August 04, 2020.


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