●互い信頼し合う文化をはぐくむ

 現在の環境に対応するうえでは、信頼を土台とするチームを築き、未知の問題にみんなで一緒に取り組めるようにしなくてはならない。

 コミュニケーションのあり方を改善し、社員の能力を認めて、透明性を確保することの重要性は、これまでもしきりに説かれてきた。しかし、実のある変化はなかなか進んでいない。コロナ禍が続く中で、互いに敬意と信頼を抱き合う職場をつくることの価値が理解されて、企業が以前よりも切実な思いで行動するようになってほしいものだ。

 雇われて働く人の60%以上は、経営幹部と社員の信頼関係が仕事への満足度を高めるうえで最も重要な要素だと答えている。信頼感の高い環境では、人はありのままの自分でいられる。そして、そのような姿勢で仕事に臨むことができれば、創造性と生産性が高まるのだ。

 信頼感の高い文化を築く取り組みは、社員に対して好ましい考え方をもつことから始まる。それが社員の行動を左右するからだ。リーダーが社員たちのことを、勤勉で、会社の成功を望んでいて、誠実に行動するものと思っていれば、社員は実際にその通りに行動する可能性が高い(ただし、自分に何が期待されているかを社員が知っている必要がある)。

「適切な文化をはぐくむことは、どのような時期にも、そしてどのような組織階層でも重要なことだ。しかし、危機のときには、それがとりわけ大切になる」と、顧客体験管理のスプリンクラーで最高文化・人材責任者を務めるダイアン・アダムズは最近記している。「幸せな気分のとき、人はプライベートでも仕事でも最良の状態になる。その結果、誰もが恩恵を被るのだ」

 このような考え方を実践するために取るべき行動は、目覚ましい成果を挙げた社員をみんなの前で称賛し成長の機会を与えること、社員がみずからの行動パターンを決めて自分の役割を形づくれるようにし自立を促すこと、オープンなコミュニケーションと人間関係の進化を通じて透明性を高めることだ。

 それにより、リーダーと社員の間に誠実さと弱さの受容を土台にした関係を養うこと、そしてマネジャーの意思決定から個人的な視点を排すべきだという思い込みを打破することを目指すべきだ。

 未知の複合的な問題に対処する思考様式を持っている人事部門のリーダーは、現在の危機を乗り切るためのカギを握るのが信頼だと理解できる。

 幸い、多くのリーダーがこのことに気づいていて、信頼の文化を築き始めている。大手PR会社エデルマンの調査によれば、人々は新型コロナウイルス関連の情報発信で政府やメディアよりも勤務先の企業を信頼しているという。