●組織のトップから変革を推進する

 ボトムアップや草の根からの変革という考え方はロマンがあり、直感的にも理解できる。だが現実として、変革はトップダウンで推進するほうがはるかに実現しやすい。ただし、これは独裁的または階層的な体制を採るべきという意味ではなく、恐怖に根差した組織文化が必要ということでもない。

 つまり、これはトランザクショナル・リーダーシップか、トランスフォーメーショナル・リーダーシップかという単純な問題だ(前者は心理的な取引・交換関係を重視し、後者はビジョンと啓蒙を重視する)。デジタルトランスフォーメーションという状況における重要なポイントは、まず変革のためにトップリーダーを選んで育成しない限り、組織の大きな変化や改善は期待できないということだ。

 リーダーシップは(良くても悪くても)下方に伝播し、組織のあらゆる側面に影響を及ぼすことがますます明らかになっている。チームや部門のパフォーマンスのばらつきの最大50%は、リーダー個人に原因がある。

 ゆえに筆者らは、「組織における変革の有効性を判断するうえで、最も重要な要因は何か」と問われると、いつも同じ答えを返す。CEOや会社のトップである。

 たしかに、業界、背景状況、組織文化、人、遺産、実際の技術力、そしてリソースもすべて重要な要因ではある。だがこれらのほとんどは、直接競合する企業間で大差ない場合も多い。一方、最高経営陣のマインド、価値観、誠実さ、そして何よりも能力は、他社との違いが際立ち、最大の差別化要因になる。

 言うまでもなく、ビジネスにおいてあらゆるものは模倣できるが、人材だけは模倣できない。したがって成果を出したいリーダーは、一流人材に投資しよう。そこに最大の価値がある。

 人材獲得競争で他社と差をつける要因は常に、リーダーシップである。しかし話題にされるのは、ソフトウェアエンジニアリングのような需要のあるスキルばかりだ。肝心なのは、そのエンジニアらをマネジメントでき、他社の同業者らをしのぐためにチームとしてまとめることができる人材を見つけることである。

 ●データから得られるインサイトに基づいて行動する

 昨今、データをめぐる議論の大半で焦点とされるのはAI(人工知能)、すなわち機械学習やディープラーニング、自然言語処理といった特定種類のコンピュータ知能だ。AIの目覚ましい進化には胸が躍るが、筆者らの見るところ、これらは自社を未来に適応させるうえでの主要な差別化要因にはならない。

 それよりも有益なデータを活用することのほうが、格段に大きな競争優位となる。データを有意義なインサイトに変換するために必要なスキルを持つこと、そして何より、それらのインサイトに基づいて行動できるようになることが決め手となる。

 インサイトなきデータは有益ではなく、インサイトに基づいていない行動には意味がない。このことの重要性は、いくら強調しても足りない。なぜなら、賢いデータサイエンティストを雇ったり、高級なAIツールを購入したりするだけで問題は解決する、あるいは自社をよりハイテク化できるという誤った思い込みを持つビジネスリーダーが、あまりに多いからだ。

 グーグル、アマゾン・ドットコム、フェイスブックとその他の企業との大きな違いは、彼らが抱えるデータサイエンティストの頭脳ではなく、技術の実際の機能性でもない(たしかに、それらが一流であることは見て取れるが)。違うのは、徹底的なデータドリブンの文化である。

 彼らは素晴らしいデータ資産を活用しており、そのデータを解釈(および収益化)するための優れたアルゴリズムを有している。しかし、最も重要な戦略的優位と資産は、彼らがデータに基づいて生き、呼吸し、行動するということだ。

 彼らにとってデータこそが真の酸素であり、この文化は誰でも金で買えるものではない。時間をかけて自社で根づかせ、育成し、活用するものであり、何よりもリーダーシップが必要となる(前述の通りだ)。

 ●素早い失敗ができないなら、ゆっくりとでも成功するよう万全を期す

 スピードが最も大事、行動こそが重要、完璧を求めれば成果が犠牲になる、素早い失敗を受け入れて求めよ――どれも経営思想においては使い古された決まり文句である。とはいえ、絶えず変化し急速に混乱が広がる現在に適応していく唯一の方法は、スピードを上げて迅速に動くことだ。

 当然ながら、スピードとクオリティの間には常にトレードオフが伴う。したがって、十分に素早く失敗できないなら、せめて長期的な取り組みは成功するよう万全を期す必要がある。

 素早い失敗ができないとはつまり、「失敗の経験から学ぶ教訓によって、より強く賢くなる」という信念に基づき迅速な実験を許容する文化が、自社に根付いていないという意味である。

 素早い失敗ができないのであれば、ゆっくりでも成功すればよい。結局のところ失敗とは、長期的な成功をつかむための戦略にすぎない。したがって別の戦略を選ぶのであれば、それでもかまわない。長期的な成功という目標を本当に実現できるよう、万全を尽くせばよい。

 ただし銘記すべき点として、成功への過度の執着は、停滞と間違った安心感を生む最たる要因だ。実際、「我々は失敗から学んだ」と自己満足で自分たちの失敗を正当化するリーダーの声がしばしば聞かれる。しかし、成功から学ぶほうがはるかに難しい。

* * *

 過去数週間にわたり、人々はグローバルコミュニティとしてアジャイル(敏捷)に動けることを証明してきた。この敏捷性は、テクノロジーに支えられながら人が主導することで生まれている。

 未来に備えるという概念における共通項は、人間だ。リモートワーク向けに次々とリリースされる技術は、人が使うことで補完される。歴史的な危機を乗り切るために必要なソフトスキルとリーダーシップは、人間が持っている。感染の治癒に向けて時間をかけた成功や、素早い失敗をするための判断材料も、人間が握っている。

 一人ひとりのリーダー、そしてリーダーが育成の義務を負う人たちから、すべては始まる。好奇心を育てることが重要だ。そうすれば、危機ではないときでも選択肢を持っておけるのだ。


HBR.org原文:Digital Transformation Is About Talent, Not Technology, May 06, 2020.


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